内 輪   第105回

大野万紀


 ファイナル・ファンタジーVIII(FF8)がやっと終わりました。もともと休みの日しかできないところを、GFを全部集めたり、武器を全部最高のにしたりとかやっていたので、ずいぶん時間がかかってしまいました。何だか批判的な声しか聞こえてこないこのゲームですが、ぼくとしてはまあ十分楽しんだのでオッケーです。ただ、やっぱり時間のかかるGFの召還映像はカットできるようにしてほしかった。ぼくは結構終わりの方までGFを使っていたので、よけいそう思います。人間の細かな動きやムービーの美しさはさすが、すごいとしかいいようがありません。エンディングムービーのすばらしさ(特に8ミリビデオで撮ったという演出のところ)もいうことなし。で、ストーリーは……これはもう、いうだけ野暮でしょう。でも2枚目の終わりくらいまでは、今回はけっこうストーリーにも力を入れているようだなと誤解するくらい、FFシリーズとしては良くできた部類に入ると思っていたのですが……。まあ、後はいうまい。
 それにしても次世代プレイステーション。3月2日の発表の時は、あちこちのホームページを回って、わーとかあーとか叫んでいました。とんでもない機械でっせ、これは。まだ戦略的にはどうなるかわからないとはいえ、もしもDVDプレイヤーとして使えるのであれば、多少高くても絶対買いますね。でも、いつ手に入ることやら。1ユーザとしての感想はそんな程度だけど、コンピュータ業界に属するサラリーマンとしては、ソニーの力の入れようが恐ろしい。これからの5年から10年後、21世紀はじめまでの展望を現実のものとして方向を定め、大胆に投資していくことのできる企業の底力を感じます。パソコンを始めとするオープンシステムが、各メーカの大型コンピュータとその端末を駆逐していったのを目の当たりにしてきたわけですが、今度は家庭用ゲーム機が、そのパソコンやワークステーションを駆逐していくのでしょうか。PS2がそうだ、というわけではないにせよ、また大きく時代が変わっていくのは間違いないようです。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『月の物語』 井上雅彦編
〈異形コレクション〉8巻目。しかし、このアンソロジーシリーズに執筆している作家たちを〈異形作家〉と呼ぶのは止めた方がいいと思うよ>大森望さん。何だかおぞましい姿を想像してしまったのです。月の物語というだけあって、本書の第二部には月テーマのSFが収められている。青山智樹「月の上の小さな魔女」、堀晃「地球食」、梶尾真治「六番目の貴公子」などがそれで、それぞれタイプは違うが、いずれも面白く読めた。その他、ホラーやファンタジイで面白かったのは、大原まり子「シャクティ〈女性力〉」、朝松健「飛鏡の蠱」、牧野修「蜜月の法」など。北野勇作「シズカの海」は、まさかそんな話とは思わなかったので、びっくりした。

『生ける闇の結婚/チョンクオ風雲録16』 デイヴィッド・ウィングローヴ
 チョンクオ風雲録の最終巻。このシリーズ、自慢じゃないがぼくは始めから全部読んでいるのだ。これこれこれこれこれこれなんかを参照のこと。しかし、あんまり強い印象の残らないシリーズだったなあ。本書ではずいぶんあわただしく話が進んで、えーっこんなのってあり、というような展開を見せる。まあ、それはそれでかまわないのだけれどね。始めから敵味方がこれくらいはっきりしていたら、もっと面白かったのだろう。いや、敵はわりとはっきりしていたのだが、ヒーローがだれなのか、最後まで混沌としていたものなあ。本書は、これまでの15巻って一体何だったんだろうねという、ややため息まじりの感想を漏らさざるを得ない巻となった。とか何とかいいながら、このシリーズ、ぼくはこれまでわりと面白く読んできたのも事実だ。全編に流れるマンダリンで大時代な残酷趣味がちょっとくどすぎて、SFというより中世風ファンタジーの雰囲気で読んできたのだが、ここ何巻か、ちょっとSF風味が増してきていたように思う。せっかくの大河小説なのだから、もう少しじっくりと結末をつけてもらいたかった気がする。

『幻惑の極微機械(ナノマシン)』 リンダ・ナガタ
 なかなか複雑な物語である。遙かな未来の遙かな宇宙の奥深くを舞台にした、遠未来SF。いくつものダイソン球の群れる〈聖大空間群〉の停滞に耐えられないはみ出し者たちが、勝手に宇宙を飛び回っている〈生きている宇宙船〉に乗って辺境の星々へと逃れていく。そこには謎めいた〈陥穽星〉という惑星があり、軌道エレベータの中間点にある人工都市には〈絹人〉と呼ばれる人々が住んでいる。宇宙には太古の殺し屋種族チェンジーム人の破壊兵器が満ちており、故郷を破壊された人々の一団が、カリスマ的な指導者に率いられ、今そこに到達した……。こういう設定って、ぼくにはすごく魅力的だ。わくわくするような宇宙SFのエッセンスがある。謎めいた様々な造語を見てもわかるように、訳者も(やや飛ばし気味なくらい)雰囲気を盛り上げようとしている。で、肝心の物語の方はというと、次々と謎が現れる前半に比べて、後半ちょっとだれ気味。テーマがカリスマ性とは、とか宗教の本質とはとかに移ってしまうのだ(それはそれでSF的解釈が面白いのだけど)。もっと宇宙SFらしい、大きな謎に挑戦してほしかったというところだ。

『エンディミオン』 ダン・シモンズ
 〈ハイペリオン〉2部作の続編で、こっちも年内に出るという後編をあわせて完結する予定の2部作。で、おそるべきことに〈ハイペリオン〉の細かなストーリーや登場人物なんかをすっかり忘れている自分に驚く。で、大丈夫かなと思いつつ読み始めたのだが、これが思いっきり大丈夫でした。すごく面白くて、すらすらと読める。あれよあれよと読み終わってしまい、早く続編が読みたい! いや、本当に。〈ハイペリオン〉は何だかやたらと登場人物が出てきた印象があるのだが、こっちはずっとシンプル。『オズの魔法使い』がベースなんだろうけど、ドロシー役の(本人は臆病ライオンだといっているけど、まさか)ちょー可愛くてかっこいい美少女ヒロイン、たぶんかかし役の主人公、ブリキマン役のアンドロイド、それからやたらとおしゃべりな宇宙船。敵役にはこれまたすごく魅力的なデ・ソヤ神父大佐と部下の〈スイス護衛兵〉。敵役といっても彼らは悪役ではない。悪役はもっと後で出てくるが、これまたすげーの。まあ、このくらいが中心なので、一人一人のキャラがちゃんと立っている。すさまじい迫力の戦闘シーンやら、様々な星々の世界描写やら、シモンズの筆力はさえ渡っている。水鏡子は『エンパイアスター』を思い起こすといっていた。まあ『エンパイアスター』というのは全てのスペースオペラと宇宙冒険SFのエッセンスが詰まっているわけで、それも間違いではないと思うが、こちらは成長物語というより世界遍歴ものだし、強力な宗教的バックボーンのある勢力が宇宙を支配しているし、何といっても美少女が出てくるし、ちょっとひねったユーモア感覚などなどから、ぼくはコードウェイナー・スミスの宇宙を連想した。あー、エンジンかかりっぱなしの訳者の日本語で、早く後編が読みたい!

『SFバカ本/だるま篇』 岬兄悟・大原まり子編
 バカSFという言い方は、理解はできるのだが、感覚的にはちょっとやっぱり違和感があるなあ。いにしえのハチャハチャSFより、もう少し範囲を広くとろうということなのだろうけど、唖然とするようなぶっとんだ作品でも、それをバカSFというのはちょっと違うだろという感覚がある。具体的には本書の大半の作品。特に牧野修「踊るバビロン」のような作品がそうだ。これは筒井康隆を思わせるシュールでグロテスクな佳作だ(いや傑作なんだけど、傑作といえないのは、せっかく脚注を使うのなら、きちんとページ内で対応させるように考えてくれなきゃ、イヤだから)。一方でバカSFというのがぴったりくるといえるのは岬兄悟「薄皮一枚」と岡本賢一「12人のいかれた男たち」。とりわけ岡本賢一のは本書のトリにふさわしい大お下劣SFで、いやー傑作だ。でも、一人称っぽい語り口から、ぼくは違った展開を想像していました。うーエッチ。

『球形の季節』 恩田陸
 東北のある地方都市を舞台に、高校生たちの「噂の研究」が町全体にかかわる奇妙な現象を明らかにしていく、あるいは呼び覚ましていく。この人の書く学園ものの雰囲気がとても好きだ。高校生というどっちつかずで落ち着かない、どこへでも行けそうでどこへも行けない、あの年代の気分が鮮やかに描写されていて、読者も読みながら彼らの一員となり彼らの時間を共有してしまう。声が間近に聞こえ、教室の木の机の手触りも思い浮かぶ。その窓から見える、ギリシアにまで続くような青空も。さて物語の方は、これは『光の帝国』でもそうだったような、この世界とほとんど地続きの別の世界が、様々な切り口からかいま見え、それがいかにもリアルに幻想的である。この、風が吹きすさび、黒い雲の飛び去っていく荒野は、ぼくだって良く知っているなじみ深い場所だ。退屈な眠るような日常を越えた嵐の予感のある高揚感。ただ、本書では〈彼〉がなぜこういうことを行い、また今度も行うのか、そのあたりがもうひとつ説得力に欠けているように感じた。『光の帝国』ならともかく、この一地方都市がなぜそれほど特別なんだろうか。もう少しその辺の書き込みがあってもいいように思った。


THATTA 133号へ戻る

トップページへ戻る