内輪 第85回 (94年12月)

大野万紀


 あはは、いつの間にか十月も終わりでやんの。何だか時間のたつのが早いですね。やっぱ年なんだろうな。
 と、夫が年を感じている時に、妻は同人誌即売会を駆け回っています。スラムダンクの三×暮オンリーということですが、専門用語が飛び交う世界のようです。話についていけそうな人は、ニフティのVFD00673へメールしてやって下さい。
 前回から今まで何が起こっていたかというと、木星に彗星は衝突したけど、巨大宇宙船は姿を現さず、サリンちゃんの事件は解決せず、プラズマの先生はちょーの世界に入っていったみたいで、金正日はあの後やっと先頃姿を見せた……何か時間のたつのは早いけど変化はあんまりなかったみたいですね。KSFAの例会場(中華料理屋)が何年ぶりかで変わったことが一番大きいかも知れない。

 さてそれでは、七月から十月にかけて読んだ本からです。


『審判の日/ワイルド・カード3』 G・R・R・マーティン編
 モジュラー小説だそうだ。どの部分が誰の作か、誰の訳かもわからないようになっている。全体がマーティンの作品といってもいいのかも知れない。ワイルド・カード・デイに〈天文学者〉の手により、エースたちが殺されていく。それとマフィアの抗争がからむ。始めはとにかく話と登場人物が入り組んで、わけがわからなくなり、読むのにずいぶん時間がかかってしまった。でも、前作ほどの盛り上がりはない。モジュラー・マンはかっこ悪いし、タートルもいいところなし。ジェニファはおバカ。でも、悪役のスペクターはいい味出している。こういうのもあってもいいとは思うが、普通の短編集形式の方がストーリイとしては面白い。次回が楽しみかな。

『空のかなたのユートピア/ギャラクシー・トリッパー美葉2』 山本弘
 前編も読んだ記憶があるが、どんな話だか忘れてしまった。元気な女の子が宇宙を飛び回る話。というか、オタク度チェック小説(大森望談)。読んでいる内は面白かったけど、特にどうということもなし。パロディも悪くはないと思うが、結局ファンダム内の雑談レベルだもんな。

『ゴースト・ストーリー』 ピーター・ストラウブ
 あとがきでも傑作といっているし、面白そうなので読んではみたが……うーむ。小説としては良くできていると思うのだが、正直、なんだこんなものかという感想。ホラーがこわいのは登場人物に感情移入するからだろう。ところがこの小説の登場人物たちはみな変なやつなので、お化けにやられても、しょうがないなと思ってしまう。お化けといえば、敵役の化け物たちより、六十越えて美人だ、セックスアピールがあるなどというおばあさんが出てきたりする方が、もっとこわいという気がするのだが。

『エイリアン刑事2』 大原まり子
 意外と早く2が文庫になった。今度は一巻本だ。残念ながら前作に比べて、焦点がぼやけているように思う。寄生生物のサスペンスはなくなってしまった。新たな追跡者たちは何のために出てくるのか良くわからない。地球皇帝とのパーティなど、悪趣味なのはいいのだが、なんでこんなところに殺人課の刑事たちが出席しているのか。しかもとても大人なら口にしないようなセリフを責任ある立場の人が口にする。マンガだな。悪い意味で。このあたりのいいかげんさはSFとしては致命的である。でも、キャラクターものとしてはこれでいいのだろう。前作が結婚をわりとオーソドックスに幸せと結びつけて描いていたのに、今回は幸せじゃない。でも最後はやっぱり元に戻るからこれでいいのか。アキはもっとエッチだと思っていたのにな。ちょっと残念(何が?)。

『無限の境界』 ロイス・マクマスター・ビジョルド
 マイルズのシリーズの中編集。『親愛なるクローン』はあまり面白くなかったのだが、本書はとても面白く読めた。中編ということで緊迫感が違うようだ。「喪の山」は宇宙SFではなく、古い因習とそれを正そうとするマイルズの話。日本人にはむしろありきたりの話に見える。悪い話ではないけれど、この程度の小説でヒューゴー・ネビュラ両賞受賞なんて、アメリカ人は甘いねえ。「迷宮」と「無限の境界」は適地潜入と捕虜救出という軍事SFで、こっちの方がサスペンスもあって面白かった。でも「無限の境界」についていえば、軍事サスペンスの面は良くできていても、ほとんどSFとはいえない。ま、それもいいか。

『謀略熱河戦線/覇者の戦塵一九三三』 谷甲州
 満州事変のことを良く知らないというのが問題だわなあ。どこからIFの世界になっているのかがわからないことと、その微妙な変化が後の歴史にどうからむのかが、この小説の視点からは見えないこと。もっとSF的な工夫をしてもいいんじゃないかと思うのだが(あの坊さんだけじゃなく)、作者がストイックなんですね。もっとも、地味でリアルな戦争小説としては、これでいいのだ。関東軍の大作戦といっても、ほんの十両ちかくの戦車隊が凍土の上を走るだけなのね。それもすぐ故障する。スペクタクルはどこにもない。それはそれでいいんだけど、シミュレーションの部分はもっとずっと先にならないと見えてこないのだろうなあ。こういう差異が積み重なってどんな世界が到来するのかというところに、SF的興味があるのだが。

『白い山/チョンクオ風雲録6』 デイヴィッド・ウィングローヴ
 始めの方でディヴォアがやられてびっくりしたが、偽物だったのでやれやれ。やっぱ最強の悪役だからね。新しい革命勢力が育ち、主人公格のカーとチェンがそっちにシンパシイを感じ出している。七帝の分裂も明確になったし。で、それでどうやねん。もっと話が進まないとわかりません。歴史は振り返ってみるから筋道がわかるのであって、流れと一緒に話が進んでいては、微視的な状況しかわからない。読者にはついていけない。キャラクターで読ませるのでないかぎり。『白い山』はそれまでの流れを大きく変えていこうとする重要な巻であるにもかかわらず、すごく安っぽくなってしまった印象がある。つまり、それまでの強烈に非情な世界が、ここにきてずいぶん常識的な倫理観に妥協しようとしているようで、それはちょっと違うんじゃないのといいたいのです。でも悪役のディヴォアは相変わらずなので、いいなあ。

『灼熱の死闘』 ボブ・ラングレー
 酒井さんから頂いた本。SFじゃなくて冒険小説。一気に読めてとても面白かった。巻き込まれた頑固者のおじさん(主人公)がとてもいい。後半、後先も考えずに勢いで行動してしまうところが強烈で、すてきだ。

『戦争を演じた神々たち』 大原まり子
 ログアウトに連載された連作短編集。これはいい。久々に堪能しました。ずっと昔の大原まり子を思い起こさせる作品集。C・スミスを思わす寓話的SF。こういうのは大好きです。ファンタジーでありながらファンタジーとは違うSFのイメージャリイが飛び交う、ハードじゃない「SF」でありました。いかにもSFらしいSF。吾妻ひでおや竹本泉みたいにSF。神話を遺伝子に組み込まれた生物とか、天の川のように果てしなく続くキネコキスの巨大な軍列と、その切っ先にぶら下がっているクデラの戦艦、なんていう、ほとんどわけのわからないわがままなイメージこそ、あのトキメキを思い起こさせてくれるものだ。こういうのをみんなまとめて「バカSF」というのは、やっぱり良くないと思うぞ(誰もそんなことはいってないだろうけど、先回りしていっておきました)。

『ゼノサイド』 オースン・スコット・カード
 エンダーのシリーズ最新巻。粛清艦隊。中国惑星。コンピュータ・ネットワークのジェイン。ウィルス。道具建てはいかにもなのだが、上巻の終わり頃までまったく話が進まない。うだうだと家族がどうとか、神がどうとか、そういうのばっかし。物語がようやく動き出してからカードらしい面白さが出てくる。ちょうど下巻の前半くらいが、いかにもカードらしい読みごたえのある物語になっている。でも下巻の後半でまたぐちゃぐちゃ。粛清艦隊はどうなったの? ジェインはどうなったの? ワンムとピーターの今後はいかにも面白くなりそうな予感があるが、それは続編待ちか。うーん。

『エミリーの記憶』 谷甲州
 昔のSFAに載った短編を集めたもの。谷甲州にしては珍しいタイプの作品が集まっている。へー、濡れ場も書けるんだ、なんて。小品だが、バラエティに富んでいるといったところ。

『天を越える旅人』 谷甲州
 久々の「大きな」SFの傑作だ。ヒマラヤの山岳小説としての骨格がしっかりしているところへ、「チベットの死者の書」に題材を得た(と帯に書いてある)仏教的幻想小説としての面、そしてラストに明らかにされるSFとしての面がうまくとけあって、宇宙論を感じさせるりっぱなSFになっている。スケールが大きいわりに物語の筆致は淡々としていて、とても気持ちがいい。仏教的世界観を現代の科学的宇宙論で再構築するということは、小松左京や光瀬龍をはじめ日本のSF作家が挑んできたテーマである。谷甲州はふたたびそれに挑み、しかも大きな成功を収めたといえる。しかし、前世とか輪廻転生とかいうのは、科学的には検証不可能なものだから、いったん前提として認めてしまえば(FTLみたいに)、それをベースにしっかりと論理的なSF世界が築けるわけだ。こういうのもりっぱにハードSFといえるのかも知れない。

『幻獣の森』 トマス・バーネット・スワン
 『ミノタウロスの森』の後で書かれた前編。グラマーでエッチな三六〇歳のおばさんが出てくる。古代クレタの自由で奔放な社会や王家の描写は好きだ。若きミノタウロスもいい。でもお話は単純でもう一つ深みがない。あっという間に読み終わってしまった。エキゾチックなクノッソスの町の描写以外は、ゾーイおばさんの饒舌くらいしか印象に残っていないな。

『あなたのなかのDNA』 中村桂子
 著者に女子大生がDNAについての質問をするという形式の啓蒙書。中村桂子さんって写真では若く見えるけど、そこそこのお年なんですね。それはともかく、個体を重視する立場から遺伝子よりゲノムを強調し、生殖細胞の遺伝子と体細胞の遺伝子をはっきりと区別する、といったところが目新しかったわけだけど、正直いってわかりにくい。例えば最も重要なゲノムという概念がもう一つイメージとして伝わってこない。教科書的な定義はわかるのだが、著者がそれを生きたイメージとして伝えようとしているだけに、もどかしさを感じる。思うに、もっとぶっとんだ比喩でも使ってみれば良かったのではないか。チャート式に図式化するとか。研究者なら常識としてわかることなのだろうが、それをそのまま出し、しかも難しいところを簡単に流そうとするから、よけいにわからなくなるのだろう。

『ヴァーチャル・ガール』 エイミー・トムスン
 人間の感情を持ったロボット少女がホームレスになって放浪する心温まる話。まあそういうことだな。ホームレスの世界を扱っているのは目新しくてマル。まあ、すんなり読めて面白かったのでいいんじゃないでしょうか。ディズニーかどこかでファミリー向けの映画にでもなりそうな話だ。でもいかにも金をかけないB級向けの話。間違ってもスピルバーグには映画化してほしくないと思う。するわけないか。人工知能やなんかとはあまり関係ないと思うのだが、ハードSFとかサイバーパンクとかの関係をうんぬんする人も出てくるかも。


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