SFファン交流会レポート

2026年3月 「『超SF創作マニュアル』を紐解く」

大野万紀


 3月のSFファン交流会は3月14日(土)、「『超SF創作マニュアル』を紐解く」と題してzoomにて開催されました。
 出演は、大森望さん(「ゲンロン 大森望 SF創作講座」主任講師、SF翻訳家、書評家)、小浜徹也さん(東京創元社編集者)、井手聡司さん(早川書房編集者)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、大森望さん、みいめさん(SFファン交流会)、小浜徹也さん、井手敏司さんです。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

 初出時に井手さんのお名前が井出となっていました。本当に申し訳ありません。漢字変換まかせの恐ろしさ。全然気がつきませんでしたが、山岸さんにご指摘いただきました。ありがとうございます。


みいめ:本日前半はみなさんが『超SF創作マニュアル』を作られた経緯、後半はその内容についてお話いただきます。

井手:東浩紀さんがやっているゲンロンというところで、大森望さんが校長の「ゲンロンSF創作講座」というのがあります。ぼくや小浜さんは時々そこにゲストとして呼ばれて先生をやっていました。そこでぼくは毎回生徒のみなさんに自分で作った小説の書き方の基本がわかる本をリストにした小雑誌をを持ってきて配ってたわけです。

大森:毎年、第一回の講義の冒頭に10分くらいその説明をすることになった。小説の書き方がわからない人は、そこに書いてあるリストの中から自分に合いそうなやつを適当に選んで読んでねと。

井手:去年の4月ごろに東さんに呼ばれて、井手の創作の書き方の本みたいなのとか小浜のSFの歴史みたいなのとか、それをちゃんとした初心者向けの小雑誌にして、SF大会や文フリで売ればいいんじゃないかという話になった。
東さんがいうには、今のSFはレベルがどんどん上がっているんだけど、人類とは何か、宇宙とは何かみたいな、そういう大きい話を書く人は少なくなってきたんで、われわれが好きだった頃のSFはこういうものなんだっていう全体像を示せるような本が作れると嬉しいねって。それで小浜さんと対談をすることになったんです。

大森:ぼくにもこういう本が出ることになったんですが、どうしますかという話があって、じゃあ監修をしますと。それで本を見せてと言ったんだけど、それっきりになって忘れていた。それが座談会が終わって東さんが第10期のSF創作講座の1回目の授業の時に配るんだと言うので、そこから逆算して全てのスケジュールが決められたんですよ。
対談だけはずっと前に仕上がってたんだけど、それ以外の原稿もこの二人で書くことになっていた。ところがいつまでたっても原稿が来ない。ベテラン編集者のはずなのにどうしたことか。
やっと来た原稿を見て、これはいかんと。ぼくは監修だけのつもりだったのに、そこからまるまる一週間つぶして原稿を仕上げた(「作家になるにはこれを読め!──必読書24」と「今日から使える!SF基礎用語50」)。

井手:メインの座談会は出来上がっていたし、それだけじゃなんだから、お勧め本と用語集を作ろうと。だんだん増えていったけれど、まあ大丈夫だろうと思っていたんですが、そうはいかなかったですね。

小浜:だから対談だけのつもりだったよね。

大森:違うでしょ。

小浜:それはまあ別にそういう泥縄なのはね、大抵のものがそうだから。編集者の締切っていうのは印刷屋の締切のことだから。

大森:おかげでゲンロンの若手が休日出勤することになった。

みいめ:まあね、私も雑誌の編集者なんだけど休日出勤っていうか、休みや深夜に編集するのが普通な人生を送っているので、ああ、そうですかって感じですけどね。

根本:全体構成はどうやって決めたんですか。

小浜:全体は東さんが決めた。

大森:東さんは小松左京的なもの、オールドスクールなものを構想していたようだが、大森が女性作家や非英米作家を入れて現代化した。

小浜:海外は作家から決めた。日本も一応そう。ディックだったら『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』は有名すぎるからやめ、『ユービック』だろうと思ったがゲンロンの若手には『ユービック』の人気が低く、『パーマーエルドリッチ』になった。ギブスンは、ハインラインはとか、そういう話をして面白かった。

井手:SFの基礎知識のところは、最初はAIに書かせたんです。それを修正して省力化しようと。

大森:デタラメだった。

小浜:今のAIだったらもっと賢いものを出してくれるんだけど、一年前はね、そこまで賢くない。

井手:とにかく大森さんに手を入れていただいたおかげで、ぼくの書いたものはだいぶ読みやすくなりました。もう本当にここは面目ないというか。

小浜:それはやっぱり、普段からそういうことばっかり説明してる人の方が偉い。ほら、よく言うじゃん。後輩に仕事内容を説明できて一人前ってなるじゃん。

井手:特に大森さんは書評原稿とか講演の原稿とかね、これまでの50年間自分が書いてきた原稿が全部自分のパソコンに入ってて、きっと自分は過去にこういう風に説明したっていうのをパパッとアウトプットができるんじゃないかと思うんですよ。だから非常に短い時間でものすごくパッパッと出されて。ちょっと恥ずかしいものがありましたね。

大森:でもまあ、メインについては間違いがなければそれでいいという感じだったんですけど、用語集とかそういう解説ものはね。座談会については、いくらなんでもっていうところはちょっと言ったけど、あとはそれぞれの主観だから。

小浜:後半の、歴史の話について言うと、東さんはファン・コミュニティというものにものすごく関心のある人で、ゲンロンカフェというのはSF大会に絶大な影響を受けて始めたんだとか。2001年の幕張のSF大会に初めて来てすごいカルチャーショックを受けたんだと。
あの人はずいぶん初期からのSFファンで、山岸真にSF大賞のパーティで大騒ぎしている哲学の若いのがいるから挨拶してくればと言われて会ったのが初めての出会い。
その翌年、SF大会に来た東浩紀は「お祭り広場」に大感激するんです。彼が言ってたのは、これこそオルタナティブな社会であると。普段の既成の社会秩序ではない社会を彼らは組み立てている。全く異なるコミュニティがあって、それが本当に手弁当で1000人も2000人も集まるような世界がある。それを目の当たりにしてこれこそ俺が求めていた世界だって言い始めて、ゲンロンというコミュニティを作った。その発展の仕方がもうSFファンダムと瓜二つって、めっちゃ面白いんだけど。
だから実は後半ってね、俺ファンダムの話しかしてないの。でもその後で、座談会を中野伶理さんが整理してくれてものすごく補ってくれた。

大森:座談会のまとめについてはゲンロンで話題になっている。AIを使った文字起こしみたいなのじゃなくて、面白い発言は残しつつ大胆に整理するのがいい。どんどんつけ加えてもいいし、そんなこと言っていなかったというのもあり。この座談会はすごく良く整理されている。

みいめ:すごく読みやすいし、こんなにきれいにしゃべれるれるはずはないので。

大森:ぼくは自分が一番得意なのは座談会とか対談の整理だと思ってるんだけど、もはやそういう仕事はあまり来ない。

みいめ:そりゃそうですよね。それ以外にやることあるでしょって。

井手:コラムの件。用語集が50しかないから、用語集に入れられなかったことは後でコラムに書いて追加すればいいって言ってた。その時何を言ったかは覚えていないんだけど、最終的にいいものができたと思います。

小浜:最後の最後に1ページ「「これはSFではない」――新しくSFを書くみなさんへ」というコラムを書いた。講座生の人たちに常々言っておきたかったことでもあるし、すごくいいこと言ってると思うんだよな。かっこいい、面白い。もう世の中の究極の真理ではないかっていうくらい。

――ここから業界話や、読んでおいた方がいいSFの話が続いて面白いのですが、長くなるので省略――

大森:中身の話に行く前にまず表紙の話。この加藤直之さんの表紙には、井手と小浜の肖像が入っている。

小浜:これ、一番最後に二人の写真が載ってる。まるっと同じやつ。

井手:この本のデザインをどうするかという話。ぼくらの対談の中で、SFのロジックは蚊取り線香だという話(SFは蚊取り線香の中央から外に向かっていくが、ミステリは外から中央を目指していくという小林信彦さんの言葉)をしていたので、それなら表紙も蚊取り線香でいいんじゃないとほとんど決まりかけていたんですが、それはちょっと、とぼくが言って、ならどうする。加藤さんとかSFイラストレーターに頼めればいいんだけどなあと言う声があったので、事情を話せば加藤さんは親身になって聞いてくれますよという話を編集部にしたんです。それで小浜さんにつないでもらって。

大森:本文に入っているchatGPTが蚊取り線香から考えたという銀河のイラストがいい。

小浜:加藤さんはゲンロンのことを知っているので話をしたら2,3時間でまとまった。加藤さんはエヴァみたいに小浜・井手が巨大ロボットを操縦しているイメージを言っていたがそれはダメと話した。

みいめ:井手さんが、座談会のことで補足の話をしたいということなので、それをお願いいします。

井手:基本的にSF初心者向けの本なので、SFとは何かということをできるだけ優しく説明したいし、定義論争みたいなのに巻き込まれるのは避けたいという思いもあって、SFに必要なものは何かと最初に3つ説明したんです。
1つはSFはIFの文学で、もし何々だったらと現実にはない世界を描く。2つめは、そのアイデアが論理的に展開していき、説得力をもって描かれる。もしかしたらそういうこともあり得るかもと読者の価値観を変えていく。3つめは、その価値観が変わるびっくりどっきりをとりあえず「センス・オブ・ワンダー」という概念で話をする。この3つを柱にしているわけです。

できればセンス・オブ・ワンダーの一言で済ませたい。他の言葉を使い出すと面倒くさいし、やっぱりぼくらはセンス・オブ・ワンダーって言葉で育ってきたわけです。水鏡子先生の『乱れ殺法SF控』のサブタイトルを覚えていますか。「SFという暴力」ですよ。センス・オブ・ワンダーがそういう危機感や問題意識と繋がるように話をしたい。
森下一仁さんの『思考する物語: SFの原理・歴史・主題』も大事な本です。これも基本的にはセンス・オブ・ワンダーとは何なのかっていうことをすごく解明している本だし、この本は後に2001年の瀬名秀明さんのSFセミナーでの講演につながってくるわけですね。

瀨名さんの小説がSFファンから非常に文句を言われているけれども、それは何でなんだろうって自己分析をした講演録があって、90年代の空気まで真空パックになったような感じで、あの時代のヒリヒリした感じが全文残ってるんだけど、あの話の中でも、森下さんの『思考する物語』を読んで、それに対して私はこういう風に思うっていう反応みたいな話とかも色々入ってる。
ぼくはこの話ともちゃんと繋がるような、嘘じゃない感じの柔らかめな言葉で自分のSF感みたいなのを説明しなきゃいけないなと思っていたわけですよ。なので、なんというか、センス・オブ・ワンダーって言葉を使いたい。言ってしまえばセンス・オブ・ワンダーって言葉で済ませたいわけです。

でも今の人がネットでセンス・オブ・ワンダーを調べるとSFファンの使う言葉ではない、自然の偉大さに触れた時に受ける神秘的な感じとか、レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』で描かれた環境保護に通じる感覚とかがヒットする。SFファンのいうセンス・オブ・ワンダーは、例えば見慣れた景色の中にゴジラが突然出てくる。この組み合わせがすごくセンスオブワンダーなんだけれど、そういう時のセンスオブワンダーって、これは文学用語でいえば「異化作用」というものです。
対談ではぼくはセンス・オブ・ワンダーという言葉を使ったんですが、大森望さんがこれまでどう使っているか調べると「センス・オブ・ワンダーもしくは認識異化効果」と両方合わせて使っている。異化効果という言葉をSFで使ったのはダルコ・スーヴィン『SFの変容: ある文学ジャンルの詩学と歴史』。でも異化効果とかエクストラポレーションとか難しい言葉を使うより、センス・オブ・ワンダーの一言で表したい。

小浜:井手がセンス・オブ・ワンダーについてとうとうと語るファン交でした。でもぼくらの世代はセンス・オブ・ワンダーって言葉をほとんど使わないから。

井手:フレドリック・ブラウンの「ミミズ天使」がSFなのかどうか論争があるんだけど、「ミミズ天使」も含めたセンス・オブ・ワンダーの定義を俺たちが決めないと許さないっていうくらい「ミミズ天使」を愛しすぎる人たちもいます。

大森:「ミミズ天使」(今の訳は「天使ミミズ」)がSFだという時に、全然サイエンスがないから、サイエンスがなくてもロジックがあればいいというために、センス・オブ・ワンダーというマジック・ワードを前面に出すことになる。ただ最近は神学論争になっちゃうし、センスワンダーで全部片付けるのはいかがなものかっていう話になってる。

井手:話を変えて、後半の座談会、新人作家にまず知ってほしいSFの歴史ですが、小浜さんはネット時代のことは忘れていて昔の話しかしていない。「SFオンライン」があったこともSF系日記サイトのこととかも忘れている。

小浜:自分の時代のことは語りにくい。自分がいなかった時代の方が客観的に語りやすい。それと今世紀に入ってもネット上のファン活動のデータというのはほぼ失われていて、それは他のオタク世界でも問題視されている。同人誌は残るがネットは消える。
最近の人にとってはは即売会そのものがファンダムであって、従来の、既存のファンダムって90年代に一回終わってるんだよ。それはファンダムがなくなったってことじゃなくて、それまでの形のファンダムは終わって、ネットや即売会なんだろうけど、ネットはSFなのかどうか、自分たちでそう名乗らなければわからない。たとえば教室でSFの話をしている仲間がいても、それがSF研と名乗らなければ観測されずに消えることになる。

大森:NIFTYって何ですか、と言われる。そこでパソコン通信とはといっても通じない。

小浜:NIFTYのSFフォーラムはファングループだった。ただのネットメディアではない。

小浜:以前小川一水がファンダム不要論を言ったが、WEBだけではダメでリアルな場が必要だと東浩紀がゲンロンを立ち上げたように、両方が必要だと思う。

みいめ:ファン交もそうです。リアルで集まったことの無い人が多く、SF大会も怖くないよと集めて連れて行こうとしているんです。


 4月のSFファン交流会は、4月18日(土)に川崎国際交流センター(「はるこん2026」会場内)で、「翻訳家というお仕事」というテーマでリアル開催されます。ゲストは大森望さん、小浜徹也さん、井手聡司さんです。リアル開催でzoomはないため、次回のSFファン交流会レポートはありません。


『SFファン交流会』インデックスへ

THATTA 454号へ戻る

トップページへ戻る