SFファン交流会レポート

2026年2月 『2025年SF回顧「海外編」&「メディア編」』

大野万紀


 2月のSFファン交流会は2月21日(土)、『2025年SF回顧「国内編」&「コミック編」』と題してzoomにて開催されました。
 出演は、中村融さん(翻訳家)、冬木糸一さん(レビュアー)、柳下毅一郎さん(映画評論家)、縣丈弘さん(レビュアー)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、中村さん、縣さん、柳下、冬木さんです。
 今回も候補リスト、お勧めリストがSFファン交流会のサイトにありますので、ダウンロードしてご覧ください。

2月例会配布資料(海外編・お勧めリスト)PDF
2月例会配布資料(海外編)PDF
2月例会配布資料(メディア編・SF映画リスト)PDF

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。


根本(SFファン交流会):前半は海外編、後半はメディア編となります。まず海外編から。

中村:ぼくは日本で一番SFを読んでいるだろう冬木さんとかぶらない作品を選ぶという方針です。
 昨今の話題として、英米でも日本でも紙の本が売れなくなっているという状況があります。どうやって紙の本を残していくか。電書はプラットフォームの都合で消えてしまうかも知れないのでぼくはやっぱり紙の本がいい。そういうことを色々と考えている人がいて、まず紹介したいのが荒俣さんがクラウドファンディングで出版された《荒俣宏幻想文学翻訳集成》というシリーズ。とても立派な本です。クラウドファンディングのリターンは荒俣さんの公演会でした。

中村:それから最近の英米のSFやファンタジーはどんどんぶ厚くなって、当然値段も上がるし、こんなの読んでいられるかって。そこで英米では中編(ノヴェラ)を一冊の本にする例が増えています。解説含めて200ページちょっとくらい。今後こういう本がどんどん増えてきます。一つの例がレイ・ネイラー『絶滅の牙』。これ、すごく好きな話で、マンモスを遺伝子操作で蘇らせてシベリアに放すんだけど、その野生のマンモスのリーダーにアフリカで象の保護活動していた女性科学者の意識をデジタル化して移すんです。昔だったら脳を移植するということになるだろうけど、現代なのでデジタル・アップロード。その主人公がどんどんマンモスの心になっていって人間を敵とみなすようになる。作品自体も面白いし、出版形態も面白い作品です。

中村:去年一番面白かったのがレムの『電脳の歌』。昔出た『宇宙創世記ロボットの旅』の新訳の上にずいぶん内容が増えていて、翻訳もレムのギャグや文体をこだわりをもって訳しているので、大変読み応えがある。またサイバネティクスに関する未来についても、コンピュータとかロボットとか60年も前にこんなことを考えていたのかとか、それが今やその通りになっているとか、すごい驚きがあります。

冬木:ぼくもだいぶ前に前の短編集で読んでいたんですが、ソラリスはあまり響かなかったけれど、こっちの方が面白かった。

(ここでzoomにいた翻訳者の芝田さんが登場)

芝田:レムの新語とかキャラクターの名前とか、どれも言葉遊びになっています。ポーランドでは子供も読んでいて『泰平ヨン』のシリーズなんかもすごく親しまれ、日本で言えば『桃太郎』のような定番のお話になっているんです。
 60年前に今では普通になっている精神転移とかAIとか、そんなアイデアが全部入っているんですが、それがおとぎ話の用語で子供にも分かるように書かれている。ただ独特の用語なので英語圏でも訳しにくいようです。

 この本はもともとわたしが翻訳する予定じゃなかったんですが、いろいろあって結局わたしが翻訳をやることになりました。じゃあ既訳と同じではなく全部新しくしようと。昔の訳ではAIとかも今のように一般的じゃないので漢文調にしたり苦労されていたんですが、今はそのまま訳した方が通じる。

 わたしはどっちかというとアニメのロボットものみたいなのを想像したので、キャラクターの名前やセリフもヤッターマンをイメージしたロボット漫才風にしてみました。わたしはSFから入った人なので、これまでの文学寄りというよりも、SFエンタメロボットアニメのテイストでやろうとした結果、こんな感じになりました。

みいめ(SFファン交流会):それではベストの方続けます。

中村:次がサラ・ピンスカー『いつかどこかにあった場所』。ピンスカーの2冊目の短編集。薄気味悪い話とアメリカの政治的状況を風刺したような作品の2つの傾向の話が入っていて、どれも非常に薄気味悪くて嫌な感じ。非常に質が高い短編集です。

中村:スティーヴン・キング『フェアリー・テール』はファンタジーです。 フェアリー・テールって妖精の物語、おとぎ話のことだけど、ジャンル名そのものをタイトルにするっていうのが作者の自信の表れなんですよね。この献辞が「REHとERBとHPLに」とあって、それってR・E・ハワードとE・R.・バロウズとH・P・ラブクラフトのことだから、これ俺読むしかないじゃんって。若い高校生がひょんなことから異世界に行く。死にそうな老犬を連れて行って一緒に冒険するって話なんだけど、もう犬好きの人には涙なくして読めない。

冬木:中村さん訳のブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』新訳版。ブラッドベリはその文章の美しさに感動したんですが、中村さん、これでブラッドベリの新訳は何冊目なんですか?

中村:これが4冊目の新訳版。今5冊目をやってます。

冬木:それからマンガ版の『ソラリス』。ソラリスの海を実際に絵にしているのが素晴らしい。「SFが読みたい!」では集計ミスがあって、順位が変わっていますが、本当に言語化不可能なものを絵に起こしていて、素晴らしい作品です。

冬木:R・F・クアン『バベル』と、アレステア・レナルズ『反転領域』がワン・ツーフィニッシュ。東京創元社は昨年に引き続いてエンタメも本格SFもしっかり出してくれています。
 『バベル』は訳者の古沢さんがやっぱりすごい。調べたんですが古沢さんが訳した本の「SFが読みたい」での支持率がとても高い。強い作家が1人あって連続1位というんじゃなくて、古沢さんの場合色んな作家で1位を取っている。目利きとしての力があるんだなと思いました。

 『バベル』は改変歴史ファンタジーです。19世紀前半を舞台にして中国で生まれた少年が両親を亡くし、オックスフォード大学へ連れてこられる。翻訳された単語の意味の揺らぎが魔法となる世界です。前半は完全にハリーポッター的な学園ものの雰囲気でワイワイしているんですが、結局彼らは大英帝国から収奪され、差別されている。後半はそれが「革命」となってすごく盛り上がるんです。昨年の中で圧倒的な作品でした。

 『反転領域』は極地探検を扱った古典SFのように始まるがどんどん話が変わっていく。役者は同じなのに舞台が変わる演劇のような感じです。物語が繰り返される度ごとに世界がどんどん反転していく。初めの普通の探検の話だけでも非常に面白くて、一言で言えば非常に基礎力が高いのに、最後の方ではうわっ、何だこれはってなる。結末の余韻も素晴らしい。これはタイトルが良かったんだと思いますよ。 いずれ何かが起こるに違いないって、ちゃんとタイトルが初めに教えてくれている。漢字4文字タイトルだし。

(ここでzoomにいた東京創元社の編集者、石亀さんが登場)

石亀:作品のタイトルは4文字にこだわってるわけじゃないんですけど、自然とそうなるっていうところです。考え方としては2文字+2文字なんですよ。だから様子がわかるものを2つぐらいピックアップしてきてそれを組み合わせていくと自然と4文字になっていく。

冬木:いや、でもこれは本当にピタッとはまりましたよね。

石亀:これもだから反転とか逆転とか、そういう単語をいくつか書き出して、領域とか空間とか書き出して、順列組み合わせで。

(ここでzoomにいた『バベル』の訳者、古沢さんが登場)

みいめ:先ほど冬木さんが、『バベル』では翻訳された単語の意味の揺らぎが魔法となるという話をされたんですが、翻訳を実際にしてみてどうでしたか。

古沢:そこはまあ、原作の力ですね。

冬木:目利きの良さについて、いつもランキング上位にあるんですが、ご自分ではどう思っていますか。

古沢:伊藤・浅倉の子供としてハイセンスなSFとはどんなものかをたたき込まれているので、それに見合うようなものを常に探しているということはありますね。でも面白いと思ってレジメを書いても売れないこともあります。
 『バベル』と同時期に出したもう1冊は「SFが読みたい」で3人しかコメントしてもらえなかった。当たり外れがあって、そんなに目利きではないと自分では思っています。

冬木:次にスチュアート・タートン『世界の終わりの最後の殺人』。終末もののミステリです。人類のほとんどが謎の黒い霧で死んじゃって、小さなギリシアの島に120人ぐらいしか残っていない。なんで残ってるかっていうと、ギリギリでバリアを開発してた研究室があって、その周辺だけバリアで守られている。そこで殺人事件が起こって島で一番偉い研究者が殺されてしまう。そのせいでバリアが消失し、犯人を見つけるまでバリアが復活しないっていう、よくわからない流れです。これがミステリーとしても面白いし、終末ものとしては人類がすごく少なくなった世界なので、そこから理想の社会を実現するためにはどうすればいいのかっていうところが面白い作品です。

冬木:トリスタン・ガルシア『7』は河出書房の告知のあらすじみを読んで、全然SFだってわかんなかったんですよ。ドラッグの売人、ロックスター、トップモデル、革命家、UFO研究者、そして「不滅の男」みたいな、最後しかSFっぽくない。これが読んでみたらめちゃめちゃSF短編集で面白かった。昨年読んだ中ではベスト2です。さらに最後の中編によって1つの長編としても読める。

冬木:ジェイムズ・モロウ『ヒロシマめざしてのそのそと』。怪獣SFのコメディですね。太平洋戦争末期にアメリカがなんとか日本を降伏させようとして怪獣を作ったけれど制御できない。ならばと小型の怪獣を作ったら攻撃性がなくなって寝てるだけ。もうしょうがないから着ぐるみに人間を入れて日本の使節団を呼んで街を破壊する姿をデモンストレーションして見せ、ビビらせて降伏させようとする。バカバカしくて、クスッと笑える文章が多くて面白いんですが、最終的には安易なハッピーエンドとは真逆になる。非常に印象に残った作品です。

根本:ここで前半を終わり、後半のメディア編へ移ります。

縣:去年のSF映画リストを作りました。私と柳下さんの推薦に○をつけています。まず自分が○をつけたものから。「ビーキーパー」はアクションもので、ジャンルは「ステイサム」(無敵のヒーロー、ジェイソン・ステイサムのシリーズ)としました。いわゆるSFではないんですけど、ここではステイサムが引退して養蜂(ビーキーパー)を細々とやっている。それがネット詐欺集団と戦う話なんですが、人類を蜂に見立て、我々はそれをコントロールする養蜂家なんだみたいなテーマが出てきて人類を外側から見るような変な設定が面白かった作品です。

柳下:「ハイパーボリア人」。「オオカミの家」というちょっと変わった人形アニメみたいなので注目されたチリの二人組の監督が作った第2作です。 で、ちょっと変な映画で、幻覚に囚われている患者がいて、それに取り憑いているのが現実のチリにいたナチの残党。彼は地球空洞説を信じていて、ハイパーボリア人というのはその極地にいるというクラーク・アシュトン・スミスが書いたクトゥルー神話の旧人類。クトゥルーと現在のナチが渾然一体となった変な映画です。

柳下:「サスカッチ・サンセット」。サスカッチというのはアメリカ西部にいるという雪男みたいな毛深い原始人。これは彼らの日常生活を淡々と描いた映画です。サスカッチなので言葉はありません。ウガウガ言っているだけ。字幕がいらないのはいいですね。予告編でもうネタバレしているんですが、現代の話です。だからサスカッチがラジカセ持ってる。いわゆるバカ映画。思いついたので作ってしまったような。でも結末は意外とほっこりするいい話になっています。

縣:『JUNK WORLD』。ストップモーションアニメ作品『JUNK HEAD」の2作目です。かなり癖が強い作品なんで、好き嫌いは分かれるところだと思うんですけれども。画面作りは1作目よりリッチに派手になっています。ストーリーもちょっとエンターテインメントな感じになっていて、この未来世界で人造人間と地下にいる人類が作った人工生命体の対立みたいのが背景にあります。時間SF的なところもあって、ピンチに陥った人が助かるところはコードウェイナー・スミスの「スズダル中佐の犯罪と栄光」を思わせるんですが、SFオタクじゃないとわからないかも。

縣:「リライト」は邦画の時間SFもの。もともとハヤカワ文庫から原作が出ていて、これを『リバー、流れないでよ』などの時間SFものが得意なヨーロッパ企画の上田誠さんが脚本を書いている作品です。いわゆる「時かけ」みたいな未来から来た少年がいて、少女と出会って、それをきっかけに――みたいなのを想像すると意外とひねくれている。「ああ、なるほど、こういう風にやるのか」みたいな感じで、ひねりがきいていて面白く、お勧めしたい作品です。

柳下:「メガロポリス」はフランシス・フォード・コッポラ監督が何億ドルかの私費を投じて作った映画。話はニューヨークがニューローマという古代ローマっぽい都市となっていてそこで理想の都市を作ろうとする建築家が主人公の話です。でもストーリーはつまらないし演出は雑で、CGがまた笑っちゃうようなCGで、客観的にはダメ映画なんですが、最終的にはこれファミリームービーとして終わるんです。そこにコッポラの人生が出てきていて底抜けのオプティミズムがあって、ぼくはこれはこれでありかという気がします。

柳下: 「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」はNetflixの配信ですが、日本ではともかく、海外で大ヒットしたアニメ映画です。めちゃくちゃ売れたんですよ。アニメと歌がとてもいい。K-POPのガールズグループ、3人組がいて、彼女たちがそのデーモンハンターだっていう、そのままですね。悪霊を歌声で退治するっていうやつです。そこにライバルとなる男の子5人組のグループが出てきて、当然恋に落ちるわけです。

縣:映像はすごいですけどね。私も面白かったですけど、なんかギャングセンスとかちょっとダサい感じがあって。そこまで先端をいくアニメ表現かっていうとそうでもなくて、それぐらいでいいんだろうとは思うんですけど。

縣:「罪人(つみびと)たち」。第一次大戦後のアメリカ南部、黒人差別が残っているなか、地元で有名なワルだった双子の黒人兄弟が帰ってきて、黒人のための酒場を作るんだと仲間たちを集め、ついにオープンしたところに吸血鬼がやって来る。後半は黒人たちと吸血鬼たちの攻防戦が展開するっていう、ブラックムービーとモダンホラーを融合させたような映画です。

柳下:前半の仲間を集めて店を作るところが「七人の侍」ぽくて良かった。後半ホラーというかアクションぽくなっていくのだけれど、その転換のところで時空を超えるSF的なシーンがあります。

本会はここで終了し、以後二次会の方で続きが語られました。話題に上がった作品は以下の通りです。

海外編(冬木)

非ジャンルSFから、ケイトリン・キアナン『溺れる少女』。SFじゃなくてホラー。錯綜した現実感覚を書き留めていく。その主観が現実ではありえない。

サラ・ブルックス『侵蝕列車』はストルガツキーのような「ゾーンもの」。列車ものの良さがある。エリアの変容とともに文体も変わっていく。『宙の復讐者』のような宇宙ものより『侵蝕列車』が上位になっている。

チョン・ボラ『呪いのウサギ』。呪物を相手に触らせないと効果が出ない。それをどうやって相手に触らせるか。

マリアーナ・エンリケス『秘儀』は闇の力を借りる南米のホラー。

オリヴィー・ブレイク『アトラス・パラドックス』はファンタジー。才能があるが性格が悪くて傲慢な魔法使いが集まっている。ブラックホールを作ったり時間をゆがめたりする。

リチャード・パワーズ『プレイグラウンド』は完全にSF。海洋生物の環境問題とインターネットやAIの物語。普通の小説のように描かれるが最後まで読むとSF的な設定がわかる。

メディア編

柳下:「スーパーマン」。みんな知っているスーパーマンだが、今回は優しいスーパーマン。ひたすらみんなを救うスーパーマン。リスも救う。最初から普通に働くクラーク・ケント。いきなりスーパーマンのアクションから始まる。
縣:これだけ見てもちゃんとわかる。
柳下:クリプトが駄犬でとてもよかった。今回スーパーガールがちょっとぐれているので駄犬になっちゃった。
縣:オタク的にもちゃんと押さえられている。

柳下:「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」。ぼくのお気に入りの映画。マンガ的なものをどうやって映画のリアルに落とし込むか。ここではレトロフューチャー的な世界にうまく溶け込ませて処理している。失敗はしていないが失敗しないように作られていて成功もしていない。

柳下:「プレデター バッドランド」も変な映画。宇宙最強の狩人と言われているけど実はそんなに強くないんじゃないかと。
縣:落ちこぼれプレデターとアンドロイド女の子のヤバイ星でのバディもの。プレデター視点で人間は出てこない。
柳下:これまでと整合性が取れていないけれど、そこは気にしないように。

縣:「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」。完全に一からスタジオを作り上げた。今回はアニメがすごくリッチになっている。ストーリーも非常にしっかりしている。世界観がしっかりしているが、それを映像で説明する。みんな見ていただきたい。去年ぼくが一番面白かった映画。

柳下:「ブラックホールに願いを!」これは自主製作映画。8年がかりで作った。近未来の筑波で人工ブラックホールが作られるようになった。その空間に入ると時間が止まる。という基本設定があって、エモい結末になるけれど、それで合っているのかわからない。福井純先生が科学監修に入っているので間違ってはいないのだろうが。見る機会があればぜひ見てほしい。


 3月のSFファン交流会は、3月14日(土)14時から、「『超SF創作マニュアル』を紐解く」というテーマで開催されます。ゲストは大森望さん、小浜徹也さん、井手聡司さんです。


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