みだれめも
第280回
水鏡子
今月発売される「本の雑誌3月号」の異世界特集で「異世界転移転生50」のリストを作成した。
3年前に「なろう本お勧め100」のリストを作ったことがあるので、まあその延長でそう苦労もないだろうと思っていたのだが、いろいろ思うところが出てきてしまって、結果的に呻吟、迷走を繰り返した。
| ① | ここ数年、出版される作品の小説作りの腕が全般的に上昇している。傑作が増えたというのではない。中の上クラスの作品数が厚みを増してきているのだ。とりわけカクヨム掲載作に。 過去の有名どころより文章や物語作りの面で技術的に凌駕するものが多々見受けられる。過去の作品を糧にして、より面白いものを作り出そうとする努力。その一方で、初期作品から受けた、WEB小説文化コミュニティを生み育てていこうとする志の高さのようなものは減じてきている印象があった。ぼくの好きな言葉で言うなら「深化と矮小化」の兆しである。 少し素朴さのある有名作品とわりと無名の出来のいい近作、さらに個人的に気に入っている作品をどう混ぜ込むか。結果的に半年後には三分の一が入れ替わっていそうな不安定なリストになった。逆に言えば、三分の二は不動であるともいえる。 |
| ② | 「本の雑誌」の読者層は、どちらかといえばミステリや冒険小説、男女間小説といったリアル世界に主軸を置いた読者の方が多いと予想される。なろう本の棚やラノベ文庫棚とかは書店で避けて通っている人が大半だろうと邪推する。ならばWEBも含めたなろう系文化全般に対しての入門的な意味合いを持たせた方がいいのではないか。 それに合わせてというか、僕の趣味でもあるのだけれど小説としてじっくり書き込まれているものをなるたけ入れるようにして、読者との馴れ合いっぽいタイプ、ハーレム要素の強いものなどラノベっぽいものを外していった。制作にあたって推奨されているストレスフリーというのも僕にとってはマイナス要素である。 直前になってマイナーな作品を二つ差し替えた。『濁った瞳のリリアンヌ』はわりと見ないタイプの作品で、『異世界英雄譚』はウサギ絡みのこだわりかたに興趣を惹かれて。ヴァリエーションの幅が広がったかなと思う。 また書籍版のレーベルをできるだけいくつもあげていくことで、出版業界での広がりを一望できるかを試みた。アルファポリスが5つも入ったが、まあ、すべてアルカディアとかからの転入組なので、これらを読んでここの系列本に期待をしないように。 |
| ③ | 多くはWEB最終更新まで読んでいる。WEB版を含めた評価である。打ち切り仕様でひどい終わらせ方がされていて書籍版としてはゴミとしかいいようのないものも選んだ。書籍版が終わった後も、心が折れず10年以上書き綴られているものには、作家魂にいたく敬意を表したい。途中から書籍書下ろしになった作品もいくつかある。逆に書籍刊行のための続刊部分を、書き上げた時点で刊行前にWEB連載する作家もあり、それもまたいいなと評価する。 |
阪急上新庄駅の近くに小町書店という小さな古本屋がある。京阪神の古本市で一律5冊800円で硬めの本を放出していてずいぶんお世話になっている。この店が冬場になると詰め放題1000円というセールを2か月間やっている。
今年も1月に2度行った。トータル3000円で53冊。1冊平均60円弱である。ル・クレジオとかコンラート・ローレンツとか「活字俱楽部」とか間違って買ったダブり本が7冊ある。
主な収穫はハイゼンベルク『科学における伝統』、ブロフェルド『道教の神秘と魔』、デイヴィッド・コノリー『天使の博物誌』、ブリース・バラン『ことばの思想史』、リチャード・キャベンディッシュ『アーサー王伝説』、マリアン・ドーキンス『動物行動学・再考』、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『マーヤと魔女』、テリー・イーグルトン『文学とは何か』、ミルハウザー『三つの小さな王国』、佐倉統『進化論の挑戦』、清水徹『書物の夢 夢の書物』、イヴ・コバ『ルーシーの膝』、曽我部学『ハーマン・メルヴィル研究』、島内景『歴史小説真剣勝負』、森達也『東京番外地』他4冊など。
1月の購入冊数149冊。購入金額19,894円。クーポン使用6,140円。
なろう本58冊。コミック6冊、だぶりエラーと買い直し15冊。
新刊は「SFマガジン2月号」の1冊のみ。頂き本に『コミック版デューン①②』、株主優待本に『学研の科学 実験鉱物と岩石標本』。
レトロ系のCDとDVDがまとめて出ていたのでいろいろ買う。『アリババと四十人の盗賊』『アラビアンナイト』『七つの顔』のDVD。CDは『懐かしのアメリカTVドラマテーマ曲集』『栄光の東映テレビ映画』『ちょんまげ天国』『笠木シヅ子全曲集』『南沙織』『オフオフマザーグース』『懐かしの流行歌』『懐かしの歌謡曲』などなど。
購入した高額本は白土三平『2年ね太郎』(クーポン1500円)、吾妻ひでお『マイコラボレーションワークス』(クーポン2570円)のコミック2冊だけ。
その他の主なところとしては、単行本でパトリシア・モイーズ『猫と話しませんか』、講座密教文化『③密教のほとけたち』、サルバドール・デ・マダリアーガ『ドン・キホーテの心理学』、池内紀『世紀末と楽園幻想』、千葉ともこ『戴天』、多田道太郎編『流行の風俗学』など。
なろう本からは、槐『冬嵐記 福島勝千代一代記』 (モーニングスターブックス) 〇
猛将の嫡男でありながら城代である叔父や親族に苛め抜かれる4歳の男子に転生した主人公が、次々と襲い来る弑逆せんとする試みを跳ね返し、生き延びていく物語。文章がしっかりしていて読み応えあり。書籍版は4巻で完結するが、その後WEBで『春雷記』『春暁記』『夏颯記』と続いていく。チートスキル皆無、ファンタジー要素も幽体離脱シーンが一瞬あっただけで、ほぼ皆無。ひたすら戦場シーンが続き、現代人である中の人が現代とこの時代との死生観の違いに慄きつつ前に進んでいく。時代は信長の活躍する少し前。戦国忍者ものの好きな読者には必見。
中の人は戦国時代についての曖昧な知見を有する理科の教師であり、今川家の重臣であった父の死後、北条に逃げのび頭角を表す実在した武将北条綱成の幼少期という設定で始まるが、どこから史実からはずれていったのか、8歳になった第2部『春雷記』ではついに今川家当主の座に昇り詰める。
骨太な小説だが、著者は女性であるとのこと。