みだれめも
第274回
水鏡子
差出人にうちのアドレスを使ってうちのアドレスに詐欺メールが届いた。なにをやってくれるのだろうか。うちに届くのはべつに迷惑メールに回すだけだからいいのだけれど、関係者宅へ送られたらいやだなあ。念のために警察に届けておいた。万が一ぼくの名前でメールがついたらお気をつけください。
香月美夜『本好きの下克上~司書になるためには手段を選んでいられません~』がなろう系で初めて星雲賞を取ったとのこと。なろうを読み始めてかなり早い時期に、本が出る前に評判を聞いてWEBに読みに行って完結まで読んでしまったので、うちには220円で拾った第26巻が1冊あるだけである。評判が良すぎて古書店ではなかなか安くならないのだ。
司書を目指した女の子が出社当日地震で本棚に押しつぶされて死んでしまい、異世界に平民の兵士の娘として転生する。その世界での平民は識字率も低く、羊皮紙で書かれた本などは貴族階級しか目にすることはない。そんな世界で文字を広め、植物紙を生み、本を作りと奮闘する主人公の話。第二部で伏線すべて回収されるじっくり書き込まれた異世界転生SFである。第三部以降は生まれた時からその身に宿した、過剰性で死にかけ発育不全になるほどの膨大な魔力を駆使して権謀術数渦巻く貴族社会のなかで成り上がり、やがては神に届くまでの力を得ていく異世界転生ファンタジーとなる。しっかりした内容の割にはマイルドで読み心地がいい。ただ、なろう系での星雲賞初受賞としては以前にノミネートされた『魔法科高校の劣等生』のほうがよりふさわしかったかと思わなくもない。まあ、とりあえず最低第二部までは読んでみてほしい。
白鳥士朗『りゅうおうのおしごと』が完結した。史上最年少で竜王位についた少年のもとに小学生の女の子が内弟子志願で訪ねてくる。詰将棋で将棋を覚えたという彼女は、寄せで天才的な技量を発揮し、周囲を瞠目させていく。
将棋倶楽部、女流棋士、奨励会など将棋界の様々な側面を、ロリネタを混ぜつつ、キャラの立った大量の登場人物を自在に使いまわしてふくらみを持たせ、ダイナミックにコミカルに話を進めていく。とくに後半、AI将棋が主要議題として浮かび上がって、テクノロジーの進歩に翻弄される伝統文化社会という、これはもう本質的にはSFといえる展開になっていく。半世紀前に同様な意味で感動した堂上まさ志のコミック『燃えろ!一歩』(今から見れば稚拙に過ぎるが)と共通する地点に着地したところにも感動した。今年のベストSFのらのべ枠では最有力候補。アニメ版は未見だが、コミック版はロリネタだけで終了した。なお、将棋コミックについては『三月のライオン』『ハチワンダイバー』が思いっきり別方向で読み応えあり。
7月の購入冊数130冊。購入金額25,034円。クーポン使用6,200円。
なろう本64冊。コミック8冊、だぶりエラーと買い直し10冊。
新刊は10,852円。『大人だって読みたい少女小説ガイド』『これからも読みたい少女小説ガイド』『昭和40年男 特集昭和マンガ』『週刊読書人 伊藤典夫評論集成』『100分de名著 筒井康隆』『りゅうおうのおしごと⑳』『TS衛生兵さんの戦場日記⑤』『TRPGプレイヤーが異世界で最強ビルドを目指す⑪上』など。
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『大人だって読みたい!少女小説ガイド』、『これからも読みたい!もっと少女小説ガイド』は嵯峨景子、三村美衣、七木香枝編集のガイドブック。コバルト、Ⅹ文庫にとどまらず、青春小説からなろう系まで幅広く取り上げられている。『マルドゥックスクランブル』『後宮小説』『紫色のクオリア』『七姫物語』などがとられているところからもタチの悪さはうかがえる。『マルドゥック』よりも『シュピーゲル』を、『クオリア』よりも『悪魔のミカタ』をとか思ったりはするけれど。索引をたよりに数えてみると最低1冊うちにある作家は176人。七、八割持っている作家もそれなりにいるので、これらの作家の本だけでたぶん三〇〇〇冊以上集まっている。四〇冊以上棚に並んでいてまだ一冊も読んでいない野村美月がわりとまめに棚にある。読んでいた香山曉子の別名だったのにちょっと驚いた。
編者三人はほぼ一回りづつ世代差があり、最年長は還暦越えである。二昔前だとそんな人間がライトノベルを読んでるなんてと思われたろうなあ。その最年長よりさらに一世代上の人間が同じものを読んでるわけでまあそういう時代ということだろう。
こちらは新刊でなく今月110円で拾った本『今すぐ読みたい!10代のためのYAブックガイド150!』は金原瑞人、ひこ・田中というぼくと同世代による監修本でタイトルのつけ方がまるで真逆なところがおもしろい。目次をみてもしごくまっとう教養的で、面白い本がつまらなそうに並んでいる。『十二国記』『ハーモニー』が重なるのはまあ当然のこととして、『紫色のクオリア』が重なったのには驚いた。なろう系がほとんどないのは2015年の出版だから仕方がないが、それでも『ログ・ホライズン』が選ばれている。橙乃ままれであるなら、むしろ『まおゆう』の方が内容的にはYAとしてふさわしいと思うが、文体的に避けられたのかもしれない。
購入冊数は減っているが、500円本が増えていて、購入金額は減っていない。まだ抵抗はあるものの、本を手に取り、「文庫本が1000円越えだしなあ」という思いが最後の一押しになる。ノスタルジーなコレクターアイテムにはずいぶんわきが甘くなってきた。
『生殖能力測定器』『地球発狂計画』『3万年のタイムスリップ』『チャチャヤングショートショート』『現代フランス幽霊譚』を500円で、東都書房版『光の塔』、ジャン・ロラン『仮面物語集』を300円で買う。帯付美本の『太陽風交点』、単行本版『五人姉妹』『帰ってきた桃尻娘』を買い直す。その他の硬めの単行本はセオドア・ゼノフォン・バーバー『もの思う鳥たち』、ドイツ民衆本の世界『④幸運のさいふと空飛ぶ帽子』朝日新聞社『新聞広告の話』、『中江兆民全集 別巻』、丸谷才一編『ポケットの本机の本』、たけなかろう『にっぽん情哥行』など。