SFファン交流会レポート

2025年7月 『魔窟王はいかにして2万5千冊減らしたのか?』

大野万紀


 7月のSFファン交流会は7月19日(土)、『魔窟王はいかにして2万5千冊減らしたのか?』と題してzoomにて開催されました。
 出演は、日下三蔵さん(アンソロジスト)、小山力也さん(古本屋ツーリスト)、近藤碧さん(「本の雑誌社」編集担当者)です。
 写真はZoomの画面ですが、左上から反時計回りに、近藤さん、小山さん、みいめさん(SFファン交流会)、日下さんです。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

 

”魔窟王”日下三蔵さんが40年にわたってため続けた本を、盛林堂書房の小野さん、古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山さんの協力のもと、数年がかりで”断捨離”し、2万冊を処分したという「血風録」。〈本の雑誌〉に連載されたものに、「おじさん三人組 日下三蔵邸に行く」、日下三蔵蔵書年表、関係者座談会などを収録した『断捨離血風録: 3年で蔵書2万5千冊を減らす方法』が出版されました。
 小山さんの『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』はその作業を小山さんの側から描いた本で、「今こそ“魔窟”の呪いを解き、“書庫”へと回帰させるのだ!」という日記風エッセイでです。2冊は同時に発売されました。
 近藤さんはその担当編集者。まずはその近藤さんからです。

近藤:本の雑誌社に入ったのは1年ちょっと前。日下さんの連載は最後の方だったので書籍化から担当した。収録したのは2008年の「世界の魔窟から」特集から。

日下:本を集めすぎて大変なことになっている人を紹介しようという企画。1回目が家だったんだけど、マンションの書庫を紹介するだけで終わっちゃって、それが書庫編、2回目が自宅編。

近藤:その後2015年の3月に、特集の「本を処分する百の方法」というのがあって、「おじさん三人組、日下三蔵邸に行く」というのもエピソード0として入れています。

日下:おじさん三人組が家に来た。(写真)

近藤:この時、小野さん、小山さんもいらした。それから数回あって、本格的な断捨離に入ったんですね。
連載が、2021年の11月から2024年の11月まで。連載と実際の片づけ作業は時期が半年ほどずれている。実際に片づけていたのは2021年の半ばから。その手伝いに、古本屋の小野さんと古本屋ツーリストの小山さんがいらしたのですが、小山さんは日記をブログにつけてたんですよね。

日下:小山さんはほぼ毎日古本屋に行っていてそれまでもブログの日記に細かく書いていた。家に来てくれた翌日にはもうそのことをブログに書いていた。その記録が本になったということです。

近藤:違う視点から同じ事を書いているんですが、どんな本が出てきたかというようなことは小山さんの方が細かく、日下さんの連載は淡々と客観的に書かれていて、本が出てきたときの日下さんの喜びや発見の驚きとかは、小山さんの方がより感情に溢れた書き方をされていました。観点が違っていて、二つ合わせると面白いということで、二冊同時に出すことになりました。誰が読むんだろうと思っていたんですが、日下さんのはすぐに重版になり、新聞にも書評されたりして驚いた。とにかく日本中がびっくりしたみたい。ずいぶん幅広く読まれているようすです。
読売新聞の書評だと、「積みあがった本が消え、トイレに入れるようになったという喜びの記述が何だか神々しい」と書いてあり、産経新聞では「著者にとっては普通のことらしくあまり振れられていないが、小山さんの本を読むとその異様さがわかる」とあった。週刊新潮では「本好きの憧憬と同情を誘う、涙と笑いの蔵書処分ルポ」だとか。

日下:トイレに行けないというのは書庫にしていたマンションの方の話で、作業中にトイレに行きたくなったら近所のコンビニへ行ってました。

近藤:Xでも色々書いて下さっていて、「読んでいるうちに、もっと本を買っていいんだと感覚がマヒした」とか「まだ自分は大丈夫だと思った」とか書いている人が多かった。私は整理ができてから2回ほど見学に行ったんですけど、それでも全部の部屋が本で埋まっていて、窓も埋まっているので樹海にいるように東西南北も何もわからなくなる。

小山:本の雑誌の取材でおじさん三人組が行く時にいっしょに行ったのが最初。聞きしに勝るすさまじさで、本宅の仕事場のPCを使うのに中に入れなくて庭に立って窓越しにキーボードを打ったりするという話があった。冗談かと思っていたらほぼそんな状態だった。

日下:ファックスと電話は本当にそうだった。

小山:一番最初は本邸とマンションと見せていただいた。人一人がやっと通れるくらいで、本の山を崩さないでくださいと怖い顔で言われた。その時は廊下や玄関にある本を一度外に出して、それを日下さんに選別してもらって必要なものだけ残すということだったんですけど、日下さんが選別するとほとんどが中に戻してしまって、その時出たのは百冊程度だった。もともと3千冊出すという話だったのに。大事なものだからと捨てられない。

日下:3千冊といったのは本の雑誌の人。

小山:それが最初。その2年後くらいから定期的な訪問がはじまった。だいぶ空きが出来たように思えても3ヶ月後くらいにいくとまた新刊で通路が埋まっていた。断捨離が始まる前はそんな繰返しだったが、断捨離が始まってから行った時は驚くほどきれいになっていた。本でいっぱいだった仕事部屋が床が見えるようになっていた。

ここでみいめさんが表示する写真を見ながら、どんな風に作業したかが語られました。家具を廃棄したり、もう大変。マップがあるけれど、ほとんどダンジョンの迷路です。

日下:本の雑誌の連載代でアパートが借りられたので、そこが断捨離の本の逃げ場になった。1年くらいのつもりだったがまる3年かかった。

小山:最初はとにかく本の山を少しずつ解体しては別のところへ移動させるの繰返しで、何とかがんばって人一人が通れるようにはなったが、まだ座れるスペースはない。アパートを借りて本格スタートとなった時には日下さんの本気が見えた。その後は毎回ミーティングをして今日は何をやるか具体的に計画した。
日下さんが整理する中でダブり本が3冊以上出たら、1冊は古本屋さん(小野さん)の買取となると決まった。そのダブり本の質がとても高いんです。

日下:必要な時、どこにあるか探すよりも新しく買う方が早い。だからダブる。

小山:趣味が同じ本の時はこんな本が出てきたといって楽しい。でも部屋一杯のコミック本を一日中整理したときは趣味が違うので面白くなかった。ダブり本の話に戻ると、4冊以上あったときにはタダでもらえる。それがまた作業のモチベーションになる。

日下:同じ本に見えても奥付が違ったりすることがよくあるのでそこは確認しないといけない。

小山:貴重な本のある本邸の書庫に入れないというのが日下さんにとって一番の問題だったので、まず廊下を整理し、通れるようにする。廊下の本を全部出し、それを日下さんが1軍、2軍、3軍へ分ける。でもやたらと1軍が増える。作業が進むうちに日下さんが次第に思い切るようになって、ここまでなら出してもいいなと、けっこうすごい本も古本屋の小野さんへ出すようになる。書庫の中に入れるようになるとダブり本も見つけやすくなって小野さんも大喜び。

日下:コロナで1年くらい中断。その間は家族で作業を進める。実際に本が減るのを見て、家族は小野さん、小山さんにものすごく感謝していた。その結果、親から庭に新しく物置を置いてもいいと言われた。古い物置を捨てて新しい物置を置いた。

小山:ダブり本が見つかっても、山田風太郎の本は3冊までは同じものでも持っておかないといけないと日下さん。山田風太郎研究家としては同じ本も3冊以上必要なのだそうだ。そうしたら後で日下さんがつい最近買った本の袋の中からまた同じ本が出てきた。本を整理しながらもまた買ってしまうという。
ダブり本では山田風太郎の短編集で『道化の方舟』事件というのもあった。マンションの方に1冊あるが、本邸の方にもあるということだった。ところが見つからない。何かで使った後、戻していなかったのだと思われる。探しても見つからないのであきらめて焼肉を食べに行ったのだけれど、車の中でいつもにぎやかな日下さんが妙に静かだった。すると突然、もう大丈夫と日下さん。『道化の方舟』を今ネットで買ったからと。本を整理しているのに何でまた3冊も同じ本を買うんですかと聞いたが、ああこうやって本が増えていくのだなと実感した。

日下:同じ本も2冊3冊と買うと新たな発見があるんです。

小山:最後にアパートを片づけて引き払った。アパートを引き払うということは本邸とマンションの方に空きが出たということだが、アパートの残りの本を持ってくるとまたいっぱいになってしまった。これからは日下さんが増えていく本をいかに選別していくかという話になる。今のところぼくらの出番はない。

日下:ぼくの方で選別しないと、今来てもらってもやってもらえることがない。マンションの方でマンガをある程度処分してスペースを作るしかないと思っている。毎月130冊とか買っていたのが今は半分くらいになっている。

近藤:日下さんの『断捨離血風録: 3年で蔵書2万5千冊を減らす方法』と小山さんの『古本屋ツアー・イン・日下三蔵邸』はぜひ両方合わせて読んでください。

 書庫を建てるような人が身近にいるので、その対比も含めてとても面白いお話でした。ちなみにこっちの人(水鏡子というんですが)は、ダブっても(人にあげることはあっても)決して売ったり捨てたりしないので、ダブり本だけでもう数百冊たまっているとか。

 8月のSFファン交流会は、8月30日(土)午後(時間は未確定)から日本SF大会「かまこん」の企画の1つとして、リアルで開催される予定です。内容は「(仮称)SFファンアーカイブ計画について」その後の状況報告など。ぼくもゲストとして参加の予定です。なおzoomによるオンラインはありません。


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