京都SFフェスティバル2004レポート

大野万紀


 京都SFフェスティバル2004は、11月20日と21日、京大本部キャンパスと、いつものさわや旅館で開催された。今年の京フェスは京大の11月祭の企画として開催されるということで、久しぶりに入った京大のキャンパスでは、あちこちに学生たちの屋台が店開きし、いかにも学祭らしい雰囲気だった。
 会場の法経第二講義室は天井からスクリーンが下りてきて、そこにPCの画面を映すことができるという、すごく新しげな教室。京大のイメージじゃないなあ(って、いつの時代のことをいっているのか)。
 教室はずいぶん広く、特に午前中は部屋の広さの割に客が少ないように感じた。でも実際の入りは例年と同じくらいか。
 教室の後ろの方では堺三保がPCを広げてなにやら打ち込んでいる。聞いてみるとやっぱりお仕事でした。きのうが締切の原稿だそうな。がんばってちょうだいね。
 THATTA用の写真を撮る都合があるので、前の方の席に座る。このあたり、けっこう見知った顔が目につく。まあ京フェスだから(SFセミナーもそうだけど)当たり前か。

対談・長谷敏司×有川浩 長谷敏司 有川浩 司会/柏崎玲央奈 

 最初の企画は『戦略拠点32098 楽園』でスニーカー大賞金賞を受賞した長谷敏司(はせ・さとし)さんと、『塩の街』で電撃ゲーム小説大賞を受賞した有川浩(ありかわ・ひろ)さんの、ライトノベル作家お二人の対談で、インタビュアーは三村美衣のはずだったが、急に来られなくなった(肩だか腰だかを痛めたそうな)とのことで、柏崎玲央奈(みらい子)がピンチヒッターとなった。ちょうど始まる直前に電車が間に合ったようで、柏崎さんは息を切らせながらの登場だった。
 長谷さんは大阪で育ち、大学は堺三保の後輩で、会社勤めをしていたが25歳ごろスピンアウト。病気をして、自分の将来を考え直したとき、小説を書こうと思ったそうだ。それが『戦略拠点』につながった。今は千葉の方に住んでいるとのこと。
 有川さんは小6くらいから作家を目指し、高校くらいから投稿を始めた。3次選考くらいまでいったが中断し、就職。結婚退職してからまた書き始めた。高知生まれだが、今は関西在住とのこと。
 ふたりとも30前後の同年代で、ライトノベル世代とのことだが、長谷さんは本を読むのはTRPGの資料として読むというTRPGの人だった。高校のころはSNEは神様と思っていたが、大学に入るとSNE反抗期に入り、ソードワールドはガキのゲームだとかいうようになったとか。いかにも大阪人らしい饒舌さだった。有川さんは小学生のとき新井素子の『星へ行く船』を読み、高校では笹本祐一にはまったとのことだった(ここで会場からなるほどと納得の声あり)。
 さらに、投稿の話や、SFについて、ライトノベルについてなど、色々と興味深い話が聞けたのだが、メモがどこかへいっちゃったので申し訳ないが省略。印象に残っているのは、有川さんの平成ガメラ談義(ガメラの前で自衛隊員が匍匐前進しているのにリアリティを感じた)や、長谷さんの有川さんに対する「円熟した人妻」発言だった。

ウェアラブルコンピュータが変える世界 池井寧 林譲治 菊池誠

 昼食をはさんで2つ目は、ウェアラブルコンピュータを研究している東京都立科学技術大学助教授の池井寧さんと、『記憶汚染』で携帯電話からの発展形としてのウェアラブルコンピュータを描いた林譲治さん、そして菊池誠大阪大学教授(この中で一番先生らしくないなあ)によるウェアラブルコンピュータの話。
 まずは菊池さんがプロジェクターを使ってこれまでの歴史や簡単な概要を説明。この世界にもカリスマ的な有名人がいるのです。それから池井さんが現在研究中の内容をレクチャー。林さんは実際にHMDを身につけて、これが目が疲れて長時間はつけていられないよとのお話。このことは日本でのウェアラブルコンピュータの積極的推進役である塚本先生も本音として発言していたとのこと。どうも将来のウェアラブルコンピュータは携帯電話から発展するのではないかということになった。視覚的なインターフェースよりも、堀晃さんのSFに出てくるトリニティのような、エージェント的なものがいいのでは。
 後、『記憶汚染』に出てくる色々な設定や、ウェアラブルコンピュータの機能の一つとしての、記憶の(銘記の)支援といった話題などがあり、とりわけ池井先生の実験を記録したムービーがとても面白かった。

失われたSFを求めて―「未来の文学」の目指すもの― 樽本周馬 聞き手/大森望

 本会の最後は国書刊行会の樽本周馬(たるもと・しゅうま)さんと大森望の対談。
 樽本さんは『ケルベロス第五の首』や『エンベディング』の国書刊行会「未来の文学」叢書の担当者だが、国書の営業として全国の図書館を走り回った話が面白かった。沖縄の図書館には国書の本がしっかりと並んでいるのだそうです。
 それはともかく「未来の文学」叢書の話。まるで70年代に海外SF研究会で作ろうとしていたようなラインアップだと大森望も語る。タイムスリップ企画ですね。ちなみに今回予定の5巻はの残りはディッシュの『アジアの岸辺』――これは傑作、スタージョン『ヴィーナス・プラス・X』、ラファティ『宇宙舟歌』だが、第二期の企画としては、ディレーニイの『ダルグレン』やスラデックの『ミューラー・フォッカー効果』、ムアコックのジェリー・コーネリアスものやティプトリーの長編も挙がっているそうだ。すごいねえ。ディレーニイの短編全集やクルートのSFエンサイクロペディアもやりたいとのこと。まさにぼくらの世代がわくわくするようなラインアップです。でもいつの時代の「未来の文学」や。
 それから『エンベディング』の山形解説の話になって、あれでも色々と抑えてらったのだそうな。大森望はさっそくPCでアマゾンのサイトにアクセスし、山形浩生の書評を探してスクリーンに表示。なるほど、毒舌です。でもそれを嬉々として編集者の前で読み上げる大森もやっぱりワルモノです。

合宿企画

大広間にて 古沢ワイン部屋
ライトノベルを語ろう 『万物理論』の部屋

 本会の終了後はいつものごとくぞろぞろと歩いてさわやへ。夕食もいつもの和食屋(さわやの横の通りにある十両という店)。量も多くてなかなかいい。途中で飛浩隆さんも混ざる。飛さんの定食には店のおばさんが一品余分にサービスしていた。
 さわやでは京大SF研の六角くんが淡々と開会宣言し、まったりといつものように合宿開始。大広間で堺くんたちと雑談。「げんしけん」の話題から、おたくにも「おたく強者」と「おたく弱者」がいるのだとか。今はぬるいオタクの方が大多数で、それに満足しており、活発に活動しているとうっとおしがられる(でもそれは昔からそうだったような)。「キミらはそれでいいんか」というと、「堺さんはオタクの勝ち組ですから」。また、SF研の部室に等身大の藤崎詩織の看板があり、それを前にして「堺さん、どうしてうちには女の子が入部しないんですかねえ」と真顔で聞いてきたとか。ま、どこまで本当か知らないけれど、ありそうな話ですね。
 ハードSFの部屋というので行ってみたが、野田令子さんが暴走していて、ハードSFをやおいの目で見る部屋となっていた。小林泰三さんや北野勇作さん、林譲治さんまでもいっしょになって、ハルXデイブとか起動エレベータX地球とかやっていた。まあ面白かったけどね。ライトノベルの部屋ではタカアキラくんが表を前にして熱く語っていたけれど、ぼくは眠くて部屋の片隅で寝てしまった。申し訳ない。その前に古沢くんのワイン部屋でおいしいワインを色々と味わったのが敗因か。
 その後、夜中1時すぎから万物理論の部屋。タイトルがおかしい(TOEは本書のテーマと直接は関係ない)とか、ジェンダーの話とか、ステートレスの話とか、『万物理論』の翻訳の用語チェックをした志村くん、野田令子さん、柏崎玲央奈さんらを中心に話がはずむ。でも何といっても、志村くんの発言を菊池さんが受ける形で、ついに結末の謎がとけ、ラマント野こそが問題であり、自閉症がすべてのキーワードだとわかってしまった。波動関数が収束するように、それが全体の構成にまで関わっているのだ。そうか、だから原題がDistressであり、基石に関するACの考えが間違っていて、ホイーラーの「参加宇宙」がポイントだったのだ。じゃあぼくが思っていた情報宇宙論の方はそれほど重要じゃなかったのか。ということでものすごく理解できた気になったのだが、残念ながら一夜明けるともう細かいところは忘れてしまっているのだった。その他、7つも性があって、それでいいのかとか、そんな話もしていたように思う。3時すぎてもう眠くなったので、寝部屋で爆睡。
 翌日は7時半ごろに起こされる。朝のクロージングでは各合宿企画の結果を担当者から報告してもらうというのがあって、ちょっと目新しかった。ところが京大SF研は現在存続の危機だそうで、来年の実行委員長がまだ決まっておらず、京フェスも危ないのだそうだ。だけど危機といっても会員は現在6人いるということで、かつての神大SF研よりずっとまし。元気なOBも多いし、何とかなるんじゃないの。実際はなかなか大変だとは思うけれど、せっかくここまで続いた京フェスだから、何とかがんばってほしいと思います。ぼくらもできるだけの協力はするよ。ともかく、スタッフのみなさん、今年もご苦労さんでした。

THATTAのこれまでの京フェスレポート

京都SFフェスティバル2003レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyofes2003篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2002レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェスから交流会まで篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2001レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京フェス2001篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル2000レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(Kyo-Fes篇) (岡本俊弥)
京都SFフェスティバル1999レポート (大野万紀) 岡本家記録とは別の話(京都SFフェスティバル篇) (岡本俊弥)


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