内輪 第83回 (94年6月)

大野万紀


 さて、THATTAの原稿を書こうと思って、前回のを読み直してみたら、おお、ひどい間違いを発見。恥ずかしいから何だったかはいわないでおこう……(ま、大したことではないです)。
 四月はFF6、五月は仕事関係がけっこう忙しくて、あまり本が読めていない。それもSFは数えるほど……。もっとSFを読もう! と誓う今日この頃です。

 それじゃあ、まずはゲーム関係の話題。FF6は良かったです。確かに期待したほどではない、という面も多少はありましたが、いやあこれだけりっぱなら私は文句なしです。やや暗めの世界と物語(と音楽)が気に入ってしまい、ストーリーが終わっても、アフター・ホロコーストの世界をあちこち放浪していました。わが家では、FF6の後、FF4をもう一度やったりしていましたが、やっぱし、操作性とか、新しい方が格段に向上していますね。これでダッシュシューズが標準装備なら……。
 ところでわが家では、このたびゲーム雑誌を「ファミコン通信」から「ザ・スーパーファミコン」に変えました。ローンの重圧にあえぐ中で、FF6も終わったのに、毎週ゲーム雑誌を買うこともあるまい、と「みんなビンボーが悪いんや」が主な理由でありますが、「ザ・スーファミ」は娘がおこずかいで買うというので、まあそれならよかろう、と。
 で、何で「ザ・スーファミ」かというと、これには「ドラッキー」のマンガが連載されているからなのです。はっきりいって、娘は「ドラッキー」のファンです。ゲームの「草やきう」もやってます(お父さんにはできません)。マンガの方はというと、なるほど、確かにこれは、なかなか強烈に個性的です。この作者は誰なんでしょう。ソフト会社にお勤めの、匿名希望の方のようですが。今は「草やきう」じゃなくて「さっかー」やってるんですけど、このノリは好きですね。かなりぶっとんでます。しかし、これって、小学四年の女の子が熱中するマンガかね……。可愛いんだけど。
 ところで、この「ザ・スーファミ」って雑誌は、「ファミ通」に比べてもっと子供向きというか、一般向きという印象があったのですが、実際そうだと思うのですが……ぱらぱらめくって見ると、おや小野不由美のページがある、谷山浩子のページがある、おやおや大原まり子のページがある。とまあ、けっこうマニアックな側面もあるようです。で、大原まり子さんったら、SMショップに行ったなんて話を書いている。そこで「生ゴムパンティ」だの「よがりはけ」だのなんて怪しげな言葉が、小学生の女の子が愛読するファミコン雑誌のページにとびかうわけだ。お父さんはびっくりしてしまいましたとさ……。

 さて、ここ二カ月ほどで読んだ本から。


『宇宙を見つめる人たち』 ドナルド・ゴールドスミス
 ノンフィクション。買ったままツンドクだったのだけれど、読んでみると面白かった。題名の通り、宇宙についての本というよりは(天文現象の科学解説もあるが)天文学者たちについての本である。ただ、それだけに一人一人とその科学的な業績について、もっとつっこんだことが知りたくなる。ここにあるのはそのほんの表面だけのようで、ちょっともどかしい。暗黒物質の存在する証拠が銀河の回転速度だということは初めて知った。

『占星師アフサンの遠見鏡』 ロバート・J・ソウヤー
 遠見鏡って、「とおみきょう」と読んでいいようです。訳者がパソ通でそういっていました。
 恐竜ガリレオ少年の物語。そのまんまといえばそのまんまだが、すらすら読めて面白い。まあ、いろんな天才を一人(?)に凝縮しているので、ちょっと都合良すぎるなという感じもあるが、そんなに分厚い本でもないからいいでしょう。もっと悲劇的になるかと思ったら、意外にハッピーになってしまった。さすがにこの年になると、ストレートすぎてもう一つかなと思うが、高校生くらいの時に読めば、きっと大喜びしたはずの話だ。つまり、これは若者による世界の発見の話であって、それも「古くさい、頭の固い大人たち」に対する「コペルニクス的転回」というものだから。その背後には真理をつかさどる科学という神が微笑んでいる。つまり、とっても正しいSF、というわけです。ダーウィン少年の話も早く読みたい。

『川の書』 イアン・ワトスン
 これは傑作だ。ファンタジーのように始まるが、いかにもワトスンらしい本格SFだ。でも何より物語りの叙述がいい。異世界でありながら、充分に感情移入可能なヒロインの冒険になっている。科学や文化の描写も、遅れ過ぎでも進み過ぎでもない、いかにもリアリティを感じさせられるように描かれている。まるでキース・ロバーツみたい。そしていわば「大きなSF」を思わせる背景の図式。えっと、こういうのはあえて図式的な方が正解だとぼくは思う。日常のリアリティと寓話的な「大きなSF」の融合。続編を読まずにいうのも危険だが、例えばぼくはこの作品からフリッツ・ライバーの寓話的な諸作を連想した。ただし、不安要素もある。物語が「大きく」外に飛び出したとき、それでもこの悠々としたペースが維持できているかということなど。まあワトスンだから、大丈夫とは思うが。早く続編が読みたい。

『イルカの島』 アーサー・C・クラーク
 創元文庫版の新訳。前のも読んだ記憶はあるのだが、あらためて読み直してみた。南の小島の雰囲気が楽しめるジュヴィナイル。SFらしさはあまりない。でも、最後のサーフィンの描写がすごく気持ちいい。そうだ、前に読んだ時もここが印象に残っていたのだなあ。サーフィンSFベストなんてのを選ぶなら、まず第一に入ってくるはずだ。他に何があったっけ? 確か何かあったような気がするんだけど……。

『ホイール・ワールド』 ハリー・ハリスン
 ずいぶん昔に買った本だ。奥付は九〇年四月だから四年もツンドクしてたのね。おまけに前編の『ホーム・ワールド』は読んでいない。でも、先入観なしに読んだが、けっこう面白かった。植民者を乗せたトラック部隊が、危険に満ちた惑星を横断して行く話。いわば西部の幌馬車隊でもあるし、自然との戦いという意味では『黒部の太陽』でもある。まあ男の世界というわけですね。後は、作者のやや古風な左派的政治観がどこまで読ませるか、というところか。

『薔薇の復讐』 マイクル・ムアコック
 九一年のエルリックの新作。エルリック・サーガの八巻なのだな。訳文も格調高い感じで、雰囲気はしっかり出ている。で、決して悪くはないのだが、どうもねえ。レミングスみたいなジプシー国の悲劇はなかなかすごいし、表面的な面白さ、描写の迫力は、さすがムアコックだから文句のつけようもないのだが。でも、あのエルリックがねえ……。考えてみれば、ヒロイック・ファンタジーというのもRPG的ゲーム小説の中に解消されてしまったのだから、ここはもはやヒロイックに徹する(すなわち生きたヒーロー/アンチヒーロー像を描く)しかないように思う。それを反対やってるわけだからねえ。

『幻獣の書』 タニス・リー
 ビンボーなぼくとしては文庫版が出たのが嬉しく、耽美な幻想小説、と期待して読み始めたのだが、半ば満足、半ば不満足。満足なのは、翻訳も含めて、確かにゴージャスな幻想の気分に浸れたこと。不満足なのは、ちょっとストレートすぎて、おどろおどろしさが乏しいこと。途中で、ちょっと諸星大二郎かホールドストック風になるかと期待したのだが、そういう民俗学的SF的方面には深まっていかなかった。でも、ローマ時代の未開地という雰囲気は好きなのだ。

『壊れた車輪』 デイヴィッド・ウィングローブ
 チョンクオ風雲録の五。ほぼ一年ぶりの新刊で、前の話を忘れかけている(ぼくは第一巻からずっと読んでます)。圧政とテロと残虐と抑圧の、暗い話だが、これからどういう方向へすすむのだろうか。こんなへんてこな中華帝国は好きじゃないが、大河歴史ドラマ風エンターテイメントとしては悪くない作品です。エバートが何だか強くなってきた。こんなやつ、ディヴォアに比べたら、ケフカみたいなただの嫌なやつだと思っていたのに。それはともかく、このシリーズ、登場人物がやたら多くて、焦点が絞り込めません。今の所、悪役ばかりが目立っている。ディヴォアっていうのが、なかなかのスーパー悪役なのだ。

『マンハッタン強奪』 ジョン・E・スティス
 出だしはいい。マンハッタンというような、一つの地域がそれごと非日常の世界へ放り出されるという設定は、物語として面白くなりうる。小松左京の「物体O」なんてそうだね。で、本書も市長と主人公の行動で、マンハッタンが異常な危機の中で改めて組織化されていく所など、とても面白い。でも途中から、だれる。特に、宗教おじさんと爆弾魔のエピソードなど、メインストーリーにからんでサスペンスを盛り上げるものと思っていたら、不発としかいいようがない。まったく必要のないおじゃまなエピソードだ。FF6のオルトロスみたい。しつこい? しつこい? 他の都市への探検も、盛り上がらない。これといった山場がないのだ。最後は宇宙での戦闘シーンになって、スペオペ的面白さは出てくるが、爽快感はない。ネタバレだけど、書いちゃおう。結末の、敵の宇宙船を透明ドームで囲って推進できなくしてしまう、というアイデアにはがっくりきた。こんな超加速や超減速を苦もなく行い、中の人間にはGがかからないなんて描写が続いていれば、当然こいつらは超科学のSF的推進法を使っているのだと思うじゃないか。それが普通の反動推進だって。それだけ強力な推進ができるな ら、そっちを武器に使った方が、レーザーやちっぽけな都市の残骸をぶつけるより、はるかに効果的だと思うのだが。それに、もし推進材が物質でなくてエネルギーなら、透明なドームで囲んだんでは閉じたことにならないと思うよ。

『サリバン家のお引越し』 野尻抱介
 ニフティのSFフォーラムなどでよく見かける作者であり、ハードSFに対する姿勢など好感がもてる人だったので、この人のクレギオン・シリーズ(富士見ファンタジア文庫)は一応読んでいた。本書はその四巻目。これまでのこのシリーズは、正直いって期待はずれだったのだけれど、本書はいい。傑作といってもいいのではないか。スペースシャトルによるスペースコロニーへのペイロードの運搬という、力学的にも面白く、マニアックなテーマを、お引越しという身近な話題に結びつけているのがいい。今回は人物描写も比較的リアルで、納得できるものになっている。せっかく苦心して宇宙まで運んだ花壇がこんなことになって、それでもめでたしめでたし、と思わせるのはりっぱである。クーデター騒ぎのドタバタはやりすぎのような気もするが、バランス的にはこれでいいだろう。SFらしいSFとして(少し軽いけど)掘り出し物でした。


 シューメーカー・レビー彗星の木星衝突まで後一カ月半。わくわく。どうなるんでしょう。楽しみだなあ。


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