SFファン交流会レポート

2026年1月 『2025年SF回顧「国内編」&「コミック編」』

大野万紀


国内編(1) 国内編(2) コミック編

 1月のSFファン交流会は1月17日(土)、『2025年SF回顧「国内編」&「コミック編」』と題してzoomにて開催されました。
 出演は、森下一仁さん(SF作家、SF評論家)、香月祥宏さん(レビュアー)、岡野晋弥さん(「SFG」代表)、福井健太さん(書評家)、林哲矢さん(レビュアー) 日下三蔵(アンソロジスト))です。なお森下さんはケガで入院中のためチャットのみの参加でした。
 今月はzoomで出演者のトップ画像表示がありませんでしたので、国内編とコミック編のお勧めリストを置きました(クリックすると大きく表示されます)。なおこれらの資料は、ファン交流会サイトからダウンロードできます。

 以下の記録は必ずしも発言通りではありません。チャットも含め当日のメモを元に簡略化して記載しているので間違いがあるかも知れません。問題があればご連絡ください。速やかに修正いたします。

■まずは国内編。

岡野:今年は短編集がめちゃめちゃいい。一番面白かったのが天沢時生『すべての原付の光』。天沢さんは滋賀を代表する作家です。バカバカしいアイデアを真面目に全力で書いていてそのギャップが面白い。

香月:表題作が強烈。「ショッピングエクスプロージョン」もSF的に過剰でものすごい。またヤクザとかヤンキーとかはぐれ者を過剰なSFで覆う。

岡野:作者の次の作品が待たれます。 次は赤野工作『遊戯と臨界』。作者の2冊目の短編集。
『原付』と同じような雰囲気の作品もあるけれど、こちらの方がしっとりしていてバラエティに富んでいる。「じゃまにもならない」は「スペランカー」のRPA(リアルタイムアタック)を題材としていて、実時間の6分間を語っていくんだが、なぜ「スペランカー」が選ばれたかというところにゲーム好きのサガが描かれていて、いいものを読ませてもらったという感じ。

みいめ:ゲームをしない人でも楽しめますか。

岡野:楽しめます。ゲームそのものではなく、ゲームを通して人が生きるさまを描いています。

香月:「お前のこったから」は月と地球のタイムラグの中で格ゲーをするという話。無理な設定なのに読ませる。

岡野:灰谷魚『レモネードに彗星』。価値観が新しかったり違う世界が見えるところがSFといっていい作品。あらすじというより文章が読者を選ぶと思われるのでnoteにあるものを読んでみたらいいのでは。話自体はささやかな生活の話やバカバカしいような話だったりするが、現代社会のままならなさを軽快な文章で描いている。
灰谷さんのnoteにある「純粋個性批判」はSFじゃないけど大傑作。

香月:他にも傑作があるのでnoteを読んでみてください。

岡野:人間六度『烙印の名はヒト』は最新長編。介護ロボットが人間を殺すというところから始まる。脱走してその中で人間とロボットの関係性が描かれ、なぜ人を殺して罪に問われたか、なぜロボットに責任を与えるのかといったところが終盤のとんでもない展開につながる。文体にはまる人とはまらない人がいるかもしれない。長谷敏司さんの『BEATLESS』とテーマが共通しているところもある。

香月:介護SFでこれだけアクションがすごいのは珍しい。

岡野:関元聡『摂氏千度、五万気圧』。タイトルだけみてハードSFだと思っていたが、それだけじゃなかった。気候変動で気温が50度以上となり人間が外では生きられない世界。人々はコクーンという閉鎖都市で暮らしている。タイトルはダイヤモンドが作られる条件で、体内でダイヤモンドを作れる結晶の民がいる。ポイントは極限状態に追い込まれた人間の醜悪な部分と良い部分が描かれているところ。ラストも希望があるかはわからないが切ない感じで美しい。結晶の民の存在が読ませどころ。

香月:伊藤典夫『伊藤典夫評論集成』は森下一仁さんの推薦。これはもう別格。森下さんのコメントでは伊藤さんは運動体としてのSFの総体を俯瞰し、新しい作品を腑分けしてきたことがわかるとあります。誰が読んでも読み物として面白い。

香月:森下さん推薦の次は、犬怪寅日子『羊式型人間模擬機』。これは期間的に一昨年にも去年にも含まれる作品。森下さんいわく「とんでもなく、奇妙でキュート」。

香月:酉島伝法『無常商店街』はまず日常的に始まるが、しだいにずれていく。異様な世界の入り口はこんなところにあるのかと。お姉さんが変な人です。

岡野:酉島伝法さんの作品の中では、入りやすい気がします。

香月:でも行き先は同じ。メチャメチャ楽しい。

香月:森下さんの推薦。笹原千波『風になるにはまだ』。情報世界に転生しても永遠ではなく人格の拡散が起きる。情報世界から現実世界に人の体を借りて戻ることもできる。

香月:森下さんの推薦。最後はカリベユウキ『マイ・ゴーストリー・フレンド』。これも一昨年のハヤカワSFコンテスト受賞作だが、団地ホラーで、ギリシャ神話で、SFホラー。

香月:自分の推薦は、円城塔『去年、本能寺で』。歴史SFなんだけど普通の歴史改変とかタイムトリップではなく、歴史がどう更新されるかのプロセス自体を描いている。よくわからない話もあるけど読んでみてください。

香月:上田早夕里『成層圏の墓標』。怪奇幻想系の作品が多いけど上田さんらしい論理がある。

香月:森下一仁『エルギスキへの旅』。クラウドファンディングで出た本。叙情的な幻想SFかと思いきや、シャーマン文化と最新科学をつなぐ本格SFとなる。

香月:村田沙耶香『世界99』。人工生物ピョコルンやラロロリンDNAといったSF的な設定を出しつつ生殖や社会制度について思考実験を重ねた大作。サイエンスというよりスペキュレーション。

香月:市川憂人『もつれ星は最果ての夢を見る』はあまり話題にならなかったが量子もつれネタの本格SF。大きなSF設定がちゃんと殺人事件の謎解きにからんでくる。

■後半はコミック編です。

福井:丸山薫『図書室のキハラさん』は3人が推薦。

林:変わった判型ですが、これは帯に連載されていたものです。

福井:図書室で働いていると不思議なことがいろいろ起こる話。

日下:ショートマンガなのでSF性は乏しいが面白い。

福井:サイトウマド『怪獣を解剖する』は昔東京で暴れた怪獣が小さな島に現れてそこで死ぬ。学者が調べに行くが現地の人には迷惑。お仕事ものの一種で、働く女性を描く。上下巻できちんと話が終わる。

日下:怪獣の死体を学者が解剖するというところを詳細に描いていて先行作品と比べてもいい。

福井:サイトウマド『解剖、幽霊、密室』は中編集。

林:SF1本と特殊設定ミステリ2本。「怪獣を解剖する」の中編版は研究者と現場作業員に話が絞られている。他2編もすばらしい。

日下:びっくりするほどうまい人が出てきたという印象。

林:へじていと+山岸菜『野球・文明・エイリアン』。野球好きのヒロインが野球のない異星人の世界へ転生し、そこに野球を広めようとする。そのために文明を発展させていく。以前の「全部ぶっ壊す」も面白かった。

福井:全部野球ネタでいろいろなことを野球で解釈する。エイリアンも優しい。主人公たちのイチャイチャあり。

福井:道満晴明『ビバリウムで朝食を』。藤子不二雄オマージュ。ひと夏の冒険もの。とても面白い。4巻で完結している。最後に超大ネタがある。

福井:ほしつ『ホイホ・ホイホイホ』。バカSF。頭を打って空を飛べるようになる。ギャグマンガ。

福井:稲井カオル『宇宙不動産ほしの』。会話が面白い作者。24世紀が舞台で小さな惑星で不動産屋を始める予定が惑星が爆破されてしまったので喫茶店で不動産屋を始める。少女のお仕事もの。会話が主体だがストーリーもしっかりしている。

林:いい感じのコメディ。

林:7Liquid『なにも理解らない』はタイトル通りの話。そもそもこの世界はどこで言語は何かまったくわからない中で解釈していく。ギャグっぽさが強い中で何に巻き込まれているのかわからない手探り状態が楽しい。

林:なまねこ『オセロとアルキメデスの冒険』は猫の先輩とポンコツ・アンドロイドのコンビでお仕事をする話。

日下:柳本光晴『龍と苺』は囲碁マンガなのだが未来へ飛ばされてAIと戦う。

日下:大暮維人『灰仭巫覡』。ファンタジーと思ったら本格SFとなった。

日下:鶴田謙二『モモ艦長の秘密基地』は季刊誌に8ページずつ連載。まだ完結していない。

林:鰻田まあち『秘密法人デスメイカー』は悪の幹部が怪人を作り出す最低ギャグを展開する。蠅とオムライスの性質をもった怪人とか、777がそろったらケルベロスに変身できる怪人、生まれた時から幽霊だった怪人など。とにかくひどい脱力な話ばかり。

林:hoihoi『ペストが明けたら遊びましょう!』は自分の部屋が中世ヨーロッパに通じてしまう。中世ヨーロッパ文化の紹介が本格的。

途中からメモが追いつかなくなってすごく断片的な紹介になってしまいました。発言者のみなさん申し訳ありません。小説編は読んだものもあっていくぶんフォローできたのですが、コミック編はほとんど読んでいないもので、間違いがあるかも知れません。ミスがあれば修正しますのでご指摘ください。

 2月のSFファン交流会は、2月21日(土)14時から、「2025年SF回顧(海外、メディア編)」をテーマに開催されます。ゲストは中村融さん、冬木糸一さん、柳下毅一郎さん、縣丈弘さんです。


『SFファン交流会』インデックスへ

THATTA 453号へ戻る

トップページへ戻る