みだれめも
第273回
水鏡子
6月は物入り月。
電子レンジが突然に異音と振動を発し、点滅を始めた。電源を落とし再起動をさせたが、状態は変わらない。爆発しそうで怖いので、慌てて再購入に走る。
去年の暮あたりからいろんなものが壊れ始める。トイレしかりガスコンロしかり。電子機器類の寿命が15年くらいというのを実感する。合わせて風呂をはじめ不具合が生じているいくつかを更新している。
昨年修理したパソコンも修理事業者からハード自体が劣化していると指摘されており、実際、マウス、キーボード、USB差込口その他いろいろ困った状態が重なっており、Windows 11のサポート終了もあり、現在の最新版を20万ほどで購入した。
いろいろ馬鹿な話が出てきた。その最たるものとして、数年前、ワイアレスのマウスを買ったのだけどなぜかうまくつながらなかった。今回ネット接続その他のために業者にきてもらったので調べてもらうと、乾電池の薄いフィルムをはがしてなかったことが判明した。そらつながらないわなあ。
ほとんどのデータはUSBに移しておいていたのだけれど、ひとつだけ面倒だったのがなろう系の閲覧履歴の移し替え。
小説家になろうには、じつは会員登録していない。会員登録しなくても30作までは閲覧履歴が記録されるのだが、これがじつはプラウザごとに可能であるのでエッジ、クローム、ファイヤーフォックスとそれぞれに30づつ記録することできている。これに母屋のものを含めると180作まで記録できてしまうのだ。カクヨムのほうは非会員の閲覧履歴が見づらいので一応マイページを作っている。
これが当然パソコン依存であるので、とりあえず印字した閲覧履歴を、新しいパソコンで作品検索をかけながら閲覧履歴を作り直していかなければならないのだが、意外と手間取る。完結済みとか3年くらい更新が止まっているものを再登録するかどうかとかいろいろ取捨選択に迷ったりしている。
旧のパソコンで師範級二千勝をしていたスパイダーソリティアをこれを機会にすっぱりやめる予定だったが、新しいパソコンにもすぐわかるところにアイコンがあってつい手を出して50勝してしまった。
まあぼちぼちと。
久方ぶりにフィッシングメールにひっかかる。証券会社の二重認証の手続きを騙ったもので、絶妙のタイミングで送ってきたので素直に信じて住所氏名電話番号などを答えてしまう。一昔前のものと比べて騙しの質が上がってこれは騙されるわなあと警戒する。なんでも生成AIの出現で質が飛躍的に向上しているのだそうだ。困ったことに電話番号を伝えてしまったため、メールだけでなくたまに電話がかかってくるようになった。みなさんお気をつけください。
『伊藤典夫評論集成』感想その1
伊藤典夫を知ってる人もあまり知らない人もまず巻末の鏡明・高橋良平対談を読んでいただきたい。業績、人となり、時代背景その他、伊藤さんについてここまで包括的にまとめあげた内容はたぶんこれまでなかったと思う。集大成の本が出るということはこういうことでもあるのだなあ。
本書の中でも伊藤さんの60年代部分は特筆に値する価値がある。
なにより日本SF界揺籃期に漂う空気感をこれだけ見事に大量かつ詳細緻密雑然と活写したものはたぶん他に類を見ない。
それは伊藤さんの立ち位置による。
福島正実、柴野拓実といったオルガナイザー、石川喬司のような発信的立場、小松左京に代表される作家陣。いずれもそれぞれの立場から外に向けた<整理された>言辞を発することが要求された。野田昌宏というひとも親しみやすい文章と取り上げる内容から勘違いされやすいが体系を重視する論文発表型研究者的立場を崩していない。
伊藤さんにはそれがない。あるがまま見たまま読んだままの日本とアメリカのSFおよびSFコミュニティを、参画していた一員として自らの体験として、近寄りがたくない文章力で活写してきたのが伊藤さんだったように思える。強いて言えば、最初期の矢野徹に似たような印象がある。「宝石 昭和30年2月号 特集世界科学小説集」に掲載された氏の「新しい英米の科學小説」などは、渡米経験に裏打ちされて、紹介できることへの興奮にあふれ、短い枚数のなかに書き切れない情報を切歯扼腕しながら氾濫させる様がなんとも心地よい。ただし矢野さんのものはあくまで体験したアメリカSFについてのものであり、日本のSFおよびSFコミュニティにからむ言及はない。
もしかしたら伊藤さんの立ち位置というのは、正統的かつ攻撃的なSFファンとして、アメリカと日本を俯瞰する「遅れてきた<フューチュリアン>」だったのかもしれないと唐突に思った。
6月の購入冊数215冊。購入金額38,632円。クーポン使用4,900円。
なろう本74冊。コミック32冊、だぶりエラーと買い直し24冊。
新刊は11,858円。優待本と頂き本3冊と『去年、本能寺で』、『すべての原付の光』、『電脳の歌』、『フリースタイル63号』、『SFマガジン8月号』など。
四万円近くなったのは、新刊一万円もさることながら、シリーズもの叢書類の欠落物をわりと高値で拾ったせいで、たかが知れた高値のものを買うことに歯止めがかからなくなったためである。あくまでたかが知れた値に限るが。
具体的には、箱入り版『新青年傑作選④翻訳編』(750円)、ミステリー文学資料館編『ロック』、『黒猫』、『エロティックミステリー』(計1,700円)、『宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する⑰⑱』(各400円)といったところ。古本文庫本には翻訳物とアンソロジーに220円、その他110円の枠を嵌めていたのだけれどミステリー文学資料館のものはほぼ集まったということで思い切った。残りは『妖奇』1冊だけである。
結果井上彼方編『新月』(1,100円)を筆頭に400円以上の本が10冊を超えた。
主なところでは石井研堂編『異国漂流奇譚集』、小林忠『江戸の絵を読む』、『江戸の画家たち』、亀井俊介『マーク・トウェインの世界』、田中宏他『イギリス・ユートピア思想』、光瀬龍『宇宙航路』、橋本治『橋』など。マーク・トウェインについては100円本200円本で『短篇全集③』、『赤道に沿って 下』などのハードカバーも拾っている。橋本治『橋』は500円も出したのに、家に帰ると持っていた。このひとも未所有本リストを作っておいた方がいいかもしれない。
今回(先の叢書欠落物を買った)大阪の古本市なのだがハードカバーの100円本がいっぱいあって久々に段ボールひと箱買った。というより送ることを決めたことで箱詰めの分量を集めたわけだが。岩波『新日本古典文学大系』のうちのファンタジー系(?)8冊、『キルケゴール著作集』4冊、バートン・L・マック『キリスト教という神話』、松田道夫編『あそび』、コリン・ウィルソン『文学の可能性』、日本近代文学館編『日本近代文学と外国文学』など。
その他の220円の面白めの硬い本および小説は次のようなところになる。
斜線堂有紀『願いの始まり』、アンドリュー・ブレイク『ハリー・ポッターの呪い』、三津田信三他『おはしさま』、ポランニー『暗黙知の次元』、『』、エリアーデ『著作集①太陽と天空神』、恩田陸『月曜日は水玉の犬』など。
今月のなろう本
◎ポチ吉『Doggy House Hound 猟犬継承』(オーバーラップノベルス)第6回オーバーラップWEB小説大賞《金賞》受賞
冷凍睡眠から解凍された人間たちが異生物とチームを組んで、敵性異生物と戦う話。SFである。文章ののりが良くて、久しぶりに◎をつけてみた。雑な部分も目につくが、十文字青とかに近い空気感。書籍化自体は5年前で1冊ぽっきりで打ち止めになっている。WEB版とヒロインを変えてるとのことで続きを読むか迷ったのだが、短めの話なので読みにいったらすごく読みにくい。書籍で読むと気に入ったリズムがWEBだとつらいというのが面白い。しばらくしてから再度挑戦する予定。
この月読んだなろう本はWEBに続きを読みに行く気がしない愚策凡作が多かった。型通りの文章力のない悪役令嬢もの、読む気が失せる人物造形力のないハーレム系。帯とかみるとそれなりにランキングに上がっているらしかったりする。あと10冊くらい揃ったので読んでみたところ、初めて読んだつもりだったのに、個人的記録簿にちゃんと評価がついていた。全然記憶がないのがすごい。以前の評価(D:中の中)より今回ワンランク低く(E:中の下)なったのは、全体に出来のいい作品が増えているのと、ハーレム展開が鼻につくようになってきているせいのようだ。他の要素に比べてハーレム展開に評価を下げるのはどうしてなのか、ふと思ったのは、しばらく前に書いた読者の四類型の一番目、自分自身を作品の第一読者としたときに、おまえはそんなハーレム展開を自分の小説として読みたいのか、と問いただしたくなるからなのかもしれない。
ノクターン系のものについてはそれもありかもしれないが。