みだれめも 第257回

水鏡子


○近況(12月)

 前回の、今年はハヤカワSFシリーズの終刊から50年というのは誤りでした。実際には49年にしかなっていませんでした。何人かの指摘を受けました。ごめんなさい。なんかまる50年とかまる100年とかは計算で1年引くものだとどこかで刷り込まれてしまっていました。まあ49年でも50年でも座りが悪いだけで趣旨に違いがありませんのでここでの謝罪で濁します。計算ミスではありません。
 計算ミスでないことを強調して置きたいのは、ここ数年、暗算能力の劣化が気にかかり、認知症の始まりでないかと不安にかられるようになっているためである。 

 株主優待で500円の金券や、1000円ごとに100円の割引がある優待券の使用に関して可能な限り現金払いを少なくするよう努力するのがひとつの頭の体操であると考え実行している(ただの貧乏性だともいえる)。ところが購入額が、990円台になって、割引券を使えないケースが今年は頻発したのだ。サービスデイやクーポンによる5%引きの日に、半額セールで買った品に8%の消費税を加えて1000円2000円のきりのいい数字に近づけるのだが、8%の消費税の掛け算が、まあとても大変だ。とくに最近、昔は普通にできたそうした暗算過程における位取りが苦しくなってきていることに気がついた。とくに引き算割り算が。
 例えば、350円引く270円という計算式があるとする。昔は直で80円と答えが出せた。それが最近、350円ー300円+30円と段階を踏まないと答えられない。
 これは若干やばくはないかと少し気をとがらせている。だからこそ頭のまる50年は計算ミスでなく勘違いであることを強調しておきたいわけである。
 ほんとうに一度だけだが食品スーパーで10点以上買った商品合計が2000円きっちりになったことがあってこのときはなんだかとても感動した。

 12月の購入数168冊。購入金額25,085円。クーポン使用20,900円。
 web小説89冊。コミック4冊。だぶりエラーと買い直し12冊。新刊本は『奏で手のヌフレッセン』『宇宙の果ての本屋』『りゅうおうのおしごと盤外篇』『SFマガジン2月号』4冊7380円。どんどん書籍棚が縮小されるまんだらけでは優待券が使い切れなく、香山滋を全集その他5冊買う。
 硬めの本は少なめ。デイヴィッド・ロッジ『考える』、講談社編『Day to Day 2020.4.1-7.9』、エリアーデ『ダヤン・ゆりの花陰に』、柴谷篤弘『あなたにとって科学とはなにか』、中村佑介『Blue』など。

 SFまとめ読み月間が終わって、web小説読みにリバウンド。
 順不同で、『氷結系こそ最強です!①②』『チュートリアルおじさん①②』『嫌われ者の悪役令息に転生したのになぜか周りが放っておいてくれない』『ジャガイモ農家の村娘』『レベルダウンの罠から始まるアラサー男の万能生活』『灰の世界は神の眼で彩づく①②』『迷宮狂走曲①』などなど70冊くらい。何巻目かを買ってきて前の話を全然思い出せなくて、はじめから読み返したものもいくつかある。
 人に勧めたい本はあまりない。可もなく不可もない本。気楽に楽しめた本、それなりに評価したがすこしものたりなかった本。ダメダメな本。いろんなレベルのものがあるが、人に勧めたいと思わないという線で切るなら同格である。 
 それでもwebに続きを読みに行ったものはそこそこある。途中で放り投げたものもかなりあるが、最終更新まで読んだものから二つ紹介。

七城『異世界村長』(ツギクルブックス)

内容紹介(「BOOK」データベースより)
 職業は…村長?それにスキルが『村』ってどういうこと?そもそも周りに人がいないんですけど…。ある日突然、大規模な異世界転移に巻き込まれた日本人たち。主人公のおっさん、40歳独身の啓介もその一人だった。森の中にボッチ転移だけど…なぜか自宅もついてきた!?やがて日も暮れだした頃、森から2人の日本人が…。村長としての生活が始まり、いち早く生活基盤を整えたいのに、ヤバそうな日本人集団に襲撃されー。そんな日本人との対立や現地人との交流、やがて広がっていく村の開拓物語。「同郷を助ける?そんな義理はない、私と村人が幸せならそれでいい」村人以外には割と容赦ない、異世界ファンタジー好きのおっさんが繰り広げる異世界村長ライフが今、始まる!

 web版完結。百万を越える日本人が異世界に召喚されてその中で職業:村長の主人公がスローライフを満喫しながら村を発展させていく。あっさりさくさく進みすぎるがどろどろしがちな部分を容赦なく削り取ってこれはこれで悪くない。安直すぎることバランスが適当なのを受け入れるなら、悪くないアイデアもいろいろあって、楽しんで読めた。

結城忍『魔王と勇者が時代遅れになりました』(TOブックス)

 あらすじ紹介(なろう作品情報)
 悪に憧れる青年イグサは地球から異世界に魔王として召喚される。
正義を嫌う少女ライムは地球から異世界に勇者として召喚される。
 剣と魔法と、魔王と勇者が戦う世界を望む2人が召喚された世界は―――
 魔王が滅ぼすはずの星は乱開発によってとうに滅んで。
勇者が守るはずの民衆は星を飛び出て宇宙で暮らし。
既に剣も魔法も忘れた人間達は宇宙で元気に戦争をしてました。

 最近SFっぽい作品がかなり目につく。もっとも書かれた時期はばらばらでこの作品も執筆開始は2013年である。なるほどこの手があったかと感心する。ベースは少し硬派のスペースオペラでそこを剣と魔法が理不尽に蹂躙する。勇者の聖剣が宇宙戦艦を一刀両断し、宇宙海賊をリヴィングアーマーの軍団が殲滅する。面白い発想はてんこ盛りだが小説としては少し雑だったりエロネタがうざったかったり残念なところが多々。

○近況(1月)

 年末の4年ぶりのSF忘年会の前座として、これも4年ぶりのカラオケにいく。ひさしぶりに歌おうとすると持ち歌だったはずのものがいくつも歌えなくなっていることにショックを受ける。その点、小学校低学年時に覚え込んだTV主題歌は体に染み着いていて、そちらの方にシフトする。

 ところが以前は見かけた歌がいくつかカラオケのラインナップから消えているではないか。「少年ジェット」とか「隠密剣士」とか。
 そんなことがきっかけで正月に5年ほど前に買って放置していた「隠密剣士」のDVDをまとめて見てみた。いくつもの発見があった。
 なにより驚いたのが第一部。忍者ものでない。
 松前藩の調査に赴いた主人公が藩とアイヌの確執に介入していく話なのだが、アイヌをインディアンに見立てた和製西部劇。和人もアイヌも馬を乗り回すは、ライフルじゃない種子島をみんながみんな撃ちまくるは、隠密剣士も拳銃持ちだったりするぶっとび時代劇。一見の価値はあるけど、どう考えてもアイヌ差別の指摘を受けそう。再放送は無理だろう。そういえば、この作品の一年前に、同じくアイヌを取り上げた『新諸国物語 白鳥の騎士』が放映されている。しかしどうやら不評だったようで、後半は北海道であるのに江戸を舞台にしたような時代劇セットに切り替わる。
 忍者が前面に出るのは第二部からである。
 山田風太郎『甲賀忍法帖』、横山光輝『伊賀の影丸』、白戸三平『忍者武芸帳』などに代表される忍法ブームに乗ってスピーディな忍者の激闘がブラウン管に映し出される。
 第二部「忍法甲賀衆」第三部「伊賀十忍」が素晴らしい。
 忍者の激闘を、撮影機材の低品質を逆手に取って工夫を凝らし臨場感あふれる殺陣にした映像美は一見の価値がある。職人魂の発露といえる。さらに第二部「忍法甲賀衆」においては「忍法変幻」「忍法隠蓑」「忍法千鳥鳴」と忍者の個人技との戦いなのが、第三部「伊賀十忍」は「伊賀隠形陣」「伊賀天兵陣」「伊賀陽炎陣」と敵方の殺陣が集団戦に移行する。職人魂の発露といえる。このかっこよさは後の特撮番組ではほとんど見られない。それどころか第四部「忍法闇法師」以降においても、そこまでのかっこよさは少なくなる。撮影機材が良くなったせいかもしれない。
 「隠密剣士」の人気を確たるものにしたと言われる第五部・第六部である「忍法風魔一族」見直すとそれほど感動できなかった。あれっと思ったのは、それまで敵方のトップは倒されるものの、死ななかった下忍衆がどんどん切り殺されるようになったのと、物語が少しまともになったこと。
 この時代のTVドラマの脚本は理不尽なまでにひどい部分があり、リテラシイ・レベルの問題と捉えていたのだが、どうもそれだけではないらしい。
 悪書追放運動と低俗番組排除が世を席巻していたのがこの時代であったらしい。民間主導の運動だったが、一説では東京オリンピックを控えて警察が指嗾した浄化施策であったと言われている。人命尊重を謳い文句にNHKからピストル、チャンバラはすべて追放されたのが昭和35年、「隠密剣士」の2年前のことだった。民法各局も西部劇や時代劇をやめることはなかったがそれでも子供も見る少年時代劇では悪人たちも殺されないことが原理原則であったようである。それが物語の展開に無理無様を生じさせていたのかもしれない。
 全十部に及ぶ物語は、それぞれにお家騒動や財宝探しなど時代伝奇の定型に則ったバラエティーに飛んでいるが、30分単位の個々のエピソードには使い回しも目につく。第八部、第九部、第十部は甲賀の金剛を狂言回しにつないでいるが、物語的によくできているのは最後の第十部「変幻忍法帖」で、隠密剣士と金剛、幻流忍者太郎坊の三つ巴の戦いが繰り広げられる。

 1月の購入数192冊。購入金額20,296円。クーポン使用5,300円。
 web小説68冊。コミック74冊。だぶりエラーと買い直し21冊。
 web小説は68冊とかなり少ないのだけれど、そのうち12冊がダブりエラー。持ってる巻についてほんとうにわからなくなっている。
 コミックは大河原遁『王様の仕立て屋』51冊、『サイボーグ009』15冊のまとめ買い。
 着道楽、食道楽、旅道楽、音楽趣味スポーツ趣味とかまったく縁がない人間だが、だからこそ、文章や漫画を通じてそんな文化に接することはそれなりに楽しい。そんな接し方を教えてくれたのは、たぶん開高健だったと思う。
 『王様の仕立て屋』はナポリのスーツ職人の弟子となった日本人がいろんな条件いろんな相手とスーツ勝負をする話。縁がない世界についての蘊蓄と機微を縁が無いよなと確かめつつ楽しく読む。
 新刊で買ったものは今月は弓月光『甘い生活2nd ⑰』715円1冊だけ。
 単行本の主なところは野坂昭如『文壇』『人称代名詞』『あやふや』、長野県文学全集『⑩資料編』、あさのまさひこ編著『海洋堂クロニクル』、メディアファクトリー『こんな漫画があったのか』、山北篤『ゲームシナリオのためのファンタジー事典』など。あとフラン・オブライエン『第三の警官』を持っているのに箱入り美本100円だったので、つい買ってしまった。

 web小説で最終更新まで読んだものから二つ。

鳴沢明人『災悪のアヴァロン』(HJ NOVELS)

内容紹介(「BOOK」データベースより)
 重度の廃人ゲーマーだった会社員の“俺”は、ガッツリやりこんだVRMMO『ダンエク』世界に転移したーと思ったら、なんと探索者学校の嫌われ悪役デブになっていた!?身体能力最低、ダンジョンのスライムにも負ける最下位スタートってマジかよ!しかもシナリオ通りの未来じゃ、美人の幼なじみとは結ばれず退学一直線の破滅エンド!?最悪の結末を回避するため、目指すはダイエット&最速レベルアップ!ゲームの裏知識も駆使し、ハーレム展開と影の英雄の座も手に入れる!冷徹な野心の下で最速最適解を求め、この“クソゲーめいたヤバすぎる世界”の攻略を始めた俺だったが…!?

 基本設定は、定番の悪役モブ転生もの。ただしこの世界に転生したのが廃人ゲーマーばかり複数名で、それぞれがNPOとの関わり方やゲームシナリオとの距離の取り方その他それぞれに異なる意図でプレイを進めていくという展開で、しっかりシリアスに話が進められていく。
 本書に限った話ではなく最近刊行された本について、気がつくとどうも過去のものより全体に小説としてレベルの高くなってきている気がする。昔読んで気に入った作家の新作を読んで、作品のテンションが落ちたとかそういうことではなく、単純に小説としての造りが最近出てきた作家のものより安直だなあと思うことから逆に気づいたところもある。もちろん手慣れた凡作を出す作家もかなりの数だが。

えんじ『悪人面したB級冒険者 主人公とその幼馴染たちのパパになる』(エンターブレイン)

内容紹介(「BOOK」データベースより)
 孤独死した「俺」は積みゲーとなっていたRPG「ブライトファンタジー」のゲームキャラに転生していた。ソロ冒険者“グレイ”として平穏に暮らしていたある日、街中で暴漢に虐げられる少年少女を救出。なんと、その少年はゲームの主人公とその幼馴染だった!不遇な生活を送る主人公たちを思わず自分の養子にすると決意したがその選択が世界の運命を大きく変えることに。

 これはかなりお勧め。同じくゲーム世界モブキャラ(?)転生ものだが、なにぶん積みゲーでゲームをやっていないのでシナリオアドバンテージがなくゲームへの思い入れもない。他者視点で語られる主要キャラたちは誰もが悲惨な過去を抱えるはずであるのが、「俺」が「そうした過去」を知らずにぶち壊しまくるというお話。


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