岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。


 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、
それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

田辺青蛙『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)

本文・カバーデザイン:木緒なち/加賀谷遥(KOMEWORKS)

 祝THATTA電子版200号(通巻322号)、SFマガジンが隔月化しているので追いつくチャンスも出てきました。65年後くらいかな。というわけでもありませんが、今回は風変わりな旅行エッセイです。

 田辺青蛙は、1982年大阪に生まれ、中学生まで京都府南部の京田辺で育ち、その後ニュージーランドに渡ってオークランド工科大学を卒業、2006年第4回ビーケーワン怪談大賞佳作2008年には第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した作家である。授賞式でのコスプレで有名になり、2010年の円城塔との結婚も話題になった。

 本書は、廣済堂のサイトでweb連載された、2012年のアメリカ旅行記を加筆訂正してまとめたもの。本年1月に発売された。期間が3カ月に渡るため、旅行記というより滞在記に近い。

 表題の「モルテン」というのは《ニルスの不思議な旅》に出てくるガチョウのこと。旅する乗り物のガチョウを食べてしまうくらい、胃袋まかせの無計画な旅を意味するらしいが、いかにも円城塔風の分かりにくいタイトルだ(この表題は夫の考えたものとある)。また旅行荷物に嵩張る「おひつ」を入れたり、コスプレの衣装を持って行ったり、かなり普通と違う旅の準備が書かれている。

 スタートはシカゴで、ここで開催されたワールドコンChicon7に参加。日本のSFを翻訳出版するハイカソルの編集者ママタス氏と出会ったり、女性のSF作家(名前は書かれていない)と会食したり、シカゴ美術館で豚と蛇が戦う絵(作者名は書かれていない)を見たり、体調を崩してせっかくのコスプレも満足にできなかったり、シカゴの特徴的なビル群を見学、日本人の墓石が礎石に使われているのを発見する、などをしている。

 大会後は、アムトラック(アメリカ唯一の旅客鉄道公社)カリフォルニア・ゼファーに乗って二泊三日の大陸横断(約4000キロ)にでる。砂漠、荒野を抜け、ロッキー山脈の断崖絶壁や落石で潰されそうなぎりぎりの鉄路を通り、塩の湖ソルトレイクを掠め、サンフランシスコに至る。疲労困憊の食堂車ウェイター、幽霊話をする乗客の老人、盛大に揺れる中豪快に飲酒する著者のエピソードが書かれている。

 サンフランシスコにつくと、予約したアパートにはベッドがない。買っても無駄になるので、布団を通販で買うがそこでも一悶着。さらに、夜中の怪音騒動が起こる。運転に自信がないので車には乗らず、公共輸送機関が中心の生活。比較的狭いサンフランシスコなので、それでもさまざまな所に行く。さびれゆく日本人街(新たな移民者が来ないから)、にぎやかで毎日がカーニバルのスペイン人街、チーズとオリーブオイルで肥満必須のイタリア人街、まるで中国かと思うなんでもありの中華街、新鮮な野菜が豊富にそろうファーマーズ・マーケット、全裸の人がうろつくカストロ通り、心霊スポットでもあるウィンチェスター・ミステリー・ハウス(ライフルで財を成した富豪の豪邸、増改築が繰り返され迷路状態となっている)、ハロウィン、SFジャイアンツ優勝、ラーメンブームの兆し(当時から増えていた)、ナパバレーでのワインツアー、最後に、二人だけの結婚式(入籍時は披露宴だけで式はなかった)となる。

 本書の趣旨は、一応アメリカでのグルメレポート(帯や表紙の写真もそうなっている)なのだが、著名な店舗を探訪するという内容ではない。たまたま立ち寄った店で、たまたま食べたものを紹介している。全体を通してとてもソフトな雰囲気で、作家二人の哲学的考察とか、社会的分析とかもない。取材とは違う、ありのままに見たアメリカでの生活レポートと、ちょっと変わった夫婦の行動を読むのが楽しい本といえる。二人だけの結婚式なんて、この二人の作風からは想像もつかない意外な結末だった。

 本書では、そもそも、何のための長期滞在なのかは明確には書かれていない。著者の関係する会社(サンフランシスコに支店がある、文中では職場と記載)での仕事が、本来の目的であったようだ。Webではそうでもないが、書籍で見ると写真が小さすぎるのが難点。

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