岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。一部blog化もされております(あまり意味ないけど)。


 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

 今月はブックレビューです。 

Amazon『狂乱西葛西日記20世紀remix』(本の雑誌社)

大森望『狂乱西葛西日記20世紀remix』(本の雑誌社)



装丁:岩郷重力+WONDER WPRKZ。

 大森望が解説を書いている『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』(翔泳社)によると、日本で最初のホームページが立ち上がったのは1992年9月30日とされている。しかし、当時は個人ユーザが契約可能なプロバイダがそもそも存在しなかった。誤解なきように書いておくと、WWWという仕組みは普及前だったが、パソコン通信型のSFサイトはいくつも立ち上がっている。例えば、そのようなパソコン通信の掲示板をテーマにした、筒井康隆『朝のガスパール』は1991年からAsahiネットで始まり、単行本化が92年。一般向けのホームページが立ち上がったのは、Windows95普及期以降(TCP/IPなどのネットワーク機能が標準で付いたのは95以降)であり、大森望の『狂乱葛西日記』も1995年3月31日にはじまった。現存する日本(世界?)最古の日記サイトとされる。当時既にNetscape や、Internet Explorerはあったが、元祖ブラウザMosaicの雰囲気を色濃く残し、低速で不安定だった。

 さて、本書が何かというと、大森望の日記そのものである(95年3月〜2000年12月30日)。世界公開を目的に書かれたものだから、社会的に問題ある記述はない(?)ものの、交遊録である以上プライベートな記述が多いのは当然だ。登場人物700人(本サイトの執筆者も大半登場します)、ほんの一部ながら人物イラスト33人(10年前からこうでしたっけ、ウエストのない三村美衣とか)や、人物紹介56人(選択基準はやや不確か)まであり。日記の性格上、仕事中の描写は少ない。95年(52p)はQV-10(カシオの元祖パーソナルユース向けデジカメ)による画像を大量アップ、96年(72p)はワールドコンで暗躍、97年(90p)はSFクズ論争で暗躍、98年(92p)は匿名座談会で暗躍、99年(80p)スリランカでクラーク相手に暗躍、2000年(85p)でもいろいろ暗躍。ひたすら遊んでいるように(カラオケが多い)見えるのも、かつての破滅型文士が書いた日記のようで納得できる。

 そうすると、この本の意義はどこにあるのか。時評集だったこれまでの著作類と異なり、より時代風俗に密着したSF/ミステリ界の実態を著している。なので、まず歴史的な価値があるだろう。ネット上の日記類は、ある日突然に消滅してしまう。一度消えると、個人的にアーカイブしていても、それを他人と共有することができなくなる。部数の多寡はともかく、リアルな本で残した方がずっと堅牢なのである。

 最後に、著者のサイトではファイルが不規則に分かれていて検索が難しいので、勝手に検索タグを付けてみました。原文(remix前の原サイト)をめくって検索したい方はご活用ください。


WWW を検索 『狂乱葛西日記』内を検索

 

 

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