続・サンタロガ・バリア  (第67回)
津田文夫


 秋も深まり……といいたいところだけど、まだ昼間は暑い日が多い。毎年秋にくるイギリスのオジさんは、11月はじめの西日本なら昼間はTシャツ1枚でも大丈夫と思っている。もう70過ぎたというのに元気だよ。
 BUMP OF CHICKIN のシングルが2枚同時発売というので早速聴いてみた。インスト部分がしっかりしてきたのはよい。特にドラムのパターンがよくできてる。楽曲や歌詞についてはまだ過渡期が続いているような感じだ。「メーデー」は佳曲だが、これまでのアップテンポのシングル曲を超えるものはあまりない。初期の名作「ガラスのブルース」も見事なセルフカヴァーだけど、オリジナルを超えるものにはなれない。「花の名」はアコースティック路線で充実した出来とは思うけど、新次元とまでは行かない。「東京賛歌」がカントリー風で歌詞も新鮮だった。BUMPの魅力は楽曲にポップ・ロック音楽史の蓄積を感じさせながら、若者応援歌みたいな初々しい歌詞が乗るところにあると思っている。それが「メーデー」のオマケ曲であるボブ・マーリーのパロディによく現れている。

 河出の奇想コレクション、パトリック・マグラア『失われた探検家』は、巻頭の「天使」と表題作が強い印象を残してこの短編集の基調を作っている。特に「天使」は強烈で、その描写力が悪臭を文章で感じさせることに成功している希有な作品だ。他には「アーノルド・クロンベックの話」や「血の病」が印象に残った。「吸血鬼クリーヴ あるいはゴシック風味の田園曲」は既読なのにすっかり忘れている。再読でもおもしろいという点では得をしているのかな。

 北野勇作『ウニバーサル・スタジオ』はダジャレ満載の北野ワールド。基本はくだらないはずなのだけれども、結構凄みと勘違いさせる構成やアイデアがあちらこちらに組み込まれていて、読後感はそれなりに充実している。でもコンバットのサンダース軍曹なんて昭和40年以降生まれにはナンのこっちゃだよなあ。だいぶ前に『恐怖記録器/フライトレコーダー』も読んでいたはずだが、もはや信楽焼のタヌキしか思い出せない。

 中村融編『千の脚を持つ男』は、相変わらず編者の腕の良さを感じさせるアンソロジー。この編者が数多くのSFを読んで何を選択するかという基本的なセンスが同じだと毎度ながら思わせてくれるところが嬉しい。標榜したのがウルトラQというだけあって、原初的な怪物ものの楽しさをあれやこれやと教えてくれるけれど、それは前半部分まででアヴラム・デイヴィッドスンやジョン・コリアともなるとかなりヒネている。キース・ロバーツの「スカーレット・レイディ」は魔の車を題材にしたホラーで、へえー、こんなのも書いていたのかロバーツは、ってな感じがする代物。

 デビューして4年目、わずか5作で人気作家と見まがうほどになった森見登美彦『有頂天家族』は、ついに続編を前提として書かれたシリーズ第1作。まあ、これまでの作品だってシリーズみたいなものだけれど、自身のブログで「毛深い愛」を表明していたタヌキ咄には作者なりの決意があったようだ。カヴァー・イラストがすばらしく、いかにも煤けた京大生の住んでいそうな京都の町並だ。出だしは高畑ジブリの「平成狸合戦ぽんぽこ」を思わせたけれども、モリミーが説教くさい展開にするわけがないので、そんな思いはすぐに消えた。どちらかというと空中戦や偽叡電に宮崎駿のイメージ力が感じられる。金曜倶楽部の扱いが教授を含めやや雑か。

 ハヤカワSFシリーズJコレ最新作の林讓治『進化の設計者』は、そのタイトルや敵役の組織名からID批判が主眼のような気がするけれど、読後感はサスペンス含みのメインストーリーのおもしろさではなく、個々のサブ・ストーリーを支えるアイデアやそこから生まれる科学技術とその倫理によって形成される。メインストーリーだけならB級エンターテインメントだといっていい。でもこの作品にはメインストーリーを読むだけではもったいない数多くの魅力的な思考がある。猫にこだわりすぎなのは、著者のブログを読んでいれば仕方ないかと思わせる。
 


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