続・サンタロガ・バリア  (第63回)
津田文夫


 久しぶりになじみのCD屋に寄ってみたら、棚の半分が演歌その他の年寄り向けの品揃えになり、DVDコーナーも無くなっていた。輸入盤もマイナーレーベルもインディーズも扱わないような個人経営のCD屋で洋楽を買う人はもはや希少な存在になったということか。買うつもりだったジェフ・ベックの前回の日本公演と同じプログラムを収めたオフィシャル・ブートレッグ国内版さえも入荷しておらず、わずかしかない洋楽の棚を眺めていたが、たまには目新しいものをとこれも縮小されたジャズの棚で見つけた黒人4人組ソウライヴの「NO PLACE LIKE SOUL」を買って帰った。オルガンが主体でほとんどの曲にヴォーカルが入っている。聴いてみるとジャズっぽさはなくて、70年代のファンキー・ソウルみたいな感じ。特にオルガンがそれっぽく、ヴォーカルはソウルっぽいがいまいち決定力を欠いている。10曲目はボブ・マーリィ風と解説に書かれていたけど、思いだしたのはウェザー・リポートの「ブラック・マーケット」。念のためにオリジナルを聴いてみたらあんまり似てなかった。11曲目もどっかで聴いたようなと思って、スティングの「ウィル・ビー・トゥギャザー」(昔ビールのCMに使われていたような気がする)を引っ張り出してみたらこちらはそっくりだ。「何を聴いても昔の曲を思い出す」状態だなぁ。

 昔のことを思い出させてくれるのが、ロバート・シェイ&ロバート・A・ウィルソン『イルミナティT ピラミッドからのぞく目』上下。刊行予告を見たときは、エーッこんなものまで出るの!?それも小川さんの訳で!!と驚愕したもんだ。これを読んでいるとペイパーバックを買っていた学生時代のことを思い出す。でも当時これを紹介したのが鏡さんだったか黒丸(白川)さんだったかその文章が載ったのがSFMか『奇想天外』だったか忘れてる。小川さんは伝奇小説といっているけれど、確かにそうだなぁ。当時はオカルティックな印象を持っていたんだが、今読むと思わず吹き出してしまうようなギャグ満載のコメディだ。麻原彰晃もこれを読んどきゃよかったのに・・・いや、読んだからああなったのかも。

 異色作家短編集19 若島正編『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス編』は軽い感じのアメリカ編に対し地味ぃな感じのものが多い。巻頭、ウィンダムの今となってはありがちなタイムトラベルものは、その地味ぃな佇まいで佳編となっているし、巻末のカウパーが集中一のソニー・ブラビア的総天然色を題材にしているにもかかわらず、カウパーらしくやっぱり地味ぃなエンターテインメントSFなのだ。メトカーフ「煙をあげる脚」あたりが一番派手な怪談かなあ。バージェス「詩神」なんかラファティが書いたといっても通りそうなバカっぷりだけど、あっけらかんとしたブラックさはない。スパークの表題作はわずか6ページ、オトすためだけのストーリーだけど見事にオチる。

 次いで異色作家短編集20 若島正編『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界編』は「世界」とはいえ英語作品から訳したものが多い。ヘンテコな話が多いという点ではこれが一番異色作家短編集らしいかな。表題作を始め、読後になんだそりゃ的反応を惹起させる作品が並ぶ。マジメに読んでると肩すかしを食らうようなものもそこここに配されている。そんな中、アイザック・B・シンガー「死んだヴァイオリン弾き」は不幸な娘に入り込んだ悪霊の話で、これまたどこにだって転がっていそうな話だが話術が超強力でそのおもしろさにびっくりする。

 佐藤亜紀『ミノタウロス』はケレンの塊みたいな造られ方をしている。かなりのスラップスティックぶりを発揮しているのに、いつもの文体のお陰でシリアスな文学みたいに見えてしまう。筒井康隆の『馬の首風雲録』ってどんな感じだったけなどと思いつつ最後までたどり着いた。主人公が葉巻をふかす場面は作者の趣味丸出しで(それともこれを書いていたから作者は葉巻をふかしていたのか)、笑ってしまった。誰かが書いていたけれど巻頭の地図は不要だな。

 オールタイム・ベストに選出されるような作品が出ないといわれる日本SF新人賞の第8回受賞作、樺山三英『ジャン=ジャックの自意識の場合』もそのジンクスは破れそうにはないが、これまでの受賞作の中では異色である。ニューウェーブ時代のファンタジーといった趣をもっていて、ボールド体活字で組まれたジャン=ジャックのJ.D宛手紙だけを読むと説得力に欠けるが、いまいち薄っぺらいとはいえ少年と少女の島からの脱出行はある程度の幻想性を維持している。この脱出行と手紙が組み合わさることで謎めかし効果が生じているんだろう。オビの設定紹介はこの作品を読む楽しみを奪ってるぞ。
 


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