続・サンタロガ・バリア  (第22回)
津田文夫


 THATTAまで年末進行スケだったとは!
 読むのも聴くのもできてないので次号回しにしようかとも思ったが、読んだ話を100パーセント忘れてしまうので少しでも書いておこう。

 林譲治『記憶汚染』は、関西と北海道を飛び回ったにしてはあまり世界が広い感じがしない話だった。暴力と政治(か?)のテーマもちょっと掘り下げが足りないし、欲求不満な仕上がりではある。人間には理解不能なコンピュータの意識とかセキュリティとかもっと面白くなる話のような気がする。メインの姉妹ももう少し魅力がほしい。と、まあ、文句が多いが、それだけ読める話だということでもある。

 J.G.バラード『スーパー・カンヌ』は去年の積み残し。『コカイン・ナイト』の焼き直しといえばその通りだけど、こっちの方がストレートな暴力話だな。バラードが「炭坑のカナリア」だったなんてハナシは聞いたことがないが、「ファイト・クラブの穴蔵の九官鳥」ぐらいにはなっているのではなかろうか。主人公をはじめ登場人物がどいつもこいつもロクな奴じゃないが、ま、バラードだし、しょうがないか。

 山本弘『神は沈黙せず』は、トンデモ現象とそれにまつわる人間のエピソードを集大成して、それをどう見ればSF的な異化作用として捉えられるかという大力作。『宇宙消滅』や『順列都市』のアイデアを流し込んでの世界の説明や盛り込まれた大量の情報の捌き具合は見事といっていい。のではあるけれど、メイン・アイデアがあまり面白くない。「中国語の部屋」と自己進化プログラムの組み合わせにはナルホドと思うものの、ちょっとストレートすぎてインパクトに欠ける感が強い。自分にしてみれば「神様がいるとしてもそういうもんだろ」というのが当たり前な感覚としてあるからなぁ。

 いしかわじゅん『鉄槌!』は、ちょっと気になった本だったので、文庫化を機会に読んでみた。学生時代だったら、この本で語られている一種カフカ的状況(またはそう見えてしまう人々の行動)に対して、いしかわじゅんの視点で語られている怒りにそのまま共感していただろうが、日常生活の中でカフカ的じゃないかと思われる状況に触れざるを得ない環境にいると、ひとつの現実に対する認識の違いが心の問題としてどこまでも解決しないままくすぶり続けるなんていうことはよくある話なのだった。だからといって怒っても無意味だとは思わないけれど、問題自体は解決しないことが多い。弁護士がテクニカル・ライターみたいなものだという思わせるところは面白い。

 読んでおきたい本がいっぱいあるが、読めないなぁ。皆さま、良いお年をお迎えくださいませ。


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