続・サンタロガ・バリア  (第15回)
津田文夫

 前言撤回。『鳥姫伝』は結構おもしろかった。そうか、七夕伝説だったのか。ここまで大ボラ風ならばそれはそれでよし。

 中村融編『不死鳥の剣』は、600ページぐらいあってもよさそうなアンソロジー。ボリューム的にちょっともの足りない。コナン・シリーズにハマッたことがないので正当派はつらいけれど、ジレルから後は愉しく読めた。ムーア、ライバー、ヴァンス、ムアコックとどれも持ち味のよくでた作品だ。ちょっとした思いつきのようなアイデアから言葉の魔術で極彩色の世界をかいま見せるヴァンスはやはりスゴい。とても久しぶりに出会ったエルリックのアンチ・ヒーローぶりに思わず笑ってしまった。ハドリー・チェイスじゃあるまいに、だれもかれもが死んでゆく。ジレルは結構萌えキャラだったのね。いまなら「ドラゴン・マガジン」か。巻末の「ヒロイック・ファンタシーの原点」でおさらいをさせてもらったけれど、いま思えばゼラズニイは「ヒロイック・ファンタシー」をたくさん書いていたんだなあ。

 秋山完『吹け、南の風』全3巻をイッキ読みしたら、1000ページ読んだ気が全然しない。「無邪気な戦争(シリー・ウォー)」前日譚ということで、全体にちょっとこぢんまりしたところがあるのと、ジルーネお嬢様が見せた株操作の大わざの衝撃力がいまひとつだったせいだろう。スケールのでかいジルーネお嬢様の物語と現場のてんやわんやを描くコムカタ/ティダの物語を交互に語りながら長さを感じさせないのは美点だが、本来語られるべき宇宙戦争の冷厳な本質が見えにくくなってしまっているのが残念。もともとそんなことを大上段で語る作風を目指していないはずなので、あげつらうことではないが、その方向への言及がチラホラしているため、シュガーなところにときおり鉄の玉が混じる感じがするのである。個々のエピソードでは、ホロリとさせられたり−特にコムカタ/ティダの方で−したけれど、全体からくる印象は小波が多くて最後の大波がなかったような印象が残った。「無邪気な戦争(シリー・ウォー)」本戦はいかに。気長に待ってます。

 アヴリル・ラヴィーンにハマる。最近ナンシー・シナトラの「カルフォルニア・ガール」と一緒に買ってきたのだが、アヴリル・ラヴィーンのおさないけれど発止とした声に耳をとられた。歌詞は年相応、オマケのDVDの出来もまあ大したことはない。曲の出来不出来も波がある。アレンジはいかにもだ。明確な発音と声の質/音色が惹きつけられる原因か。しかし、この声はいつまで保つんだろう。
 ケンペで「幻想」はないよなと思いつつ、買ってきてしまった。ベルリン・フィルのスーパー・オーケストラぶりがよくわかる。演奏はこれが「幻想」でなければ、まったく文句のない出来。「幻想」を聴きたけりゃ、ミンシュでもクリュイタンスでもオザワでも聴くべきものはいっぱいあろうが、ケンペの場合は「幻想」じゃない交響曲としてなら何回聴いてもOK。前回ロイヤル・フィルをケナしたけど、72年にチョン・キョンファのバックを付けたロイヤル・フィルの演奏は十分聴けるものなので、さすが10年もケンペの下にあればそれなりの音を出していたのであった。
 クリムゾンのハイド・パーク・ライヴは、そういう場面でのライヴというだけでオーラが発生している。 


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