SFセミナー2003レポート

大野万紀


受付 「どうぶつ図鑑」先行販売

 SFセミナー2003は、今年も5月3日、4日に東京で開催された。お茶の水駅から歩いて全電通労働会館へ到着。
 ディーラーズ(というかロビーだが)では、北野勇作どうぶつ図鑑の3と4が先行販売されていた。ちゃんと折り紙が完成しているのがすごい。合宿企画でも志村くんが実演していたが、かなり難しいのだ。
 いつもの人たちと挨拶。女性陣がほとんど着物姿だったのは、何かわけがあるのだろうか。あ、SFファングループ連合会議の会費をみーめに渡すのを忘れていた!今思い出したよー。
 某所から流出したらしい古本のたたき売りを三村美衣がやっていた。ほとんどのが100円。ぼくも1冊、アシモフのミステリ・アンソロジーを買いました。サンリオ文庫も千円くらいだったような気がする。なんせ、三村美衣が適当に値をつけていたからね。けっこう掘り出し物もあったかも。

SFラジオドラマの世界 門倉純一・真銅健嗣

 門倉純一さんと、NHKのラジオドラマのディレクターをしている真銅健嗣さんの対談。二人とも話術がたくみで、まさにラジオドラマの世界。門倉さんにはかつてヴァーリイの短編をラジオドラマ化していただいた経験がある。ところが、記憶はあるのだが、いつ放送されたとか、そういう記録が残っていないことに気がついた。困ったもんだ。
 対談はオーソン・ウエルズの「宇宙戦争」から始まり、ラジオドラマの特性(どんなスペクタクルシーンでも安上がり、カットバックがやりにくいのでミステリには向かない等々)や、昔はSF作家が自ら脚本を書いたりしていたといった話。放送したドラマのCD化は、著作権(特に音楽)の問題で難しいとか。現場の話というのは、どんな分野でも聞き応えがある。
 最近はラジオをほとんど聞かないぼくだけれど、音でイメージされる世界の広がりはSFやファンタジーのような想像力に依存するジャンルには、確かにマッチするだろうと思う。「SFは絵だ!」という言葉は、活字から絵がイメージされるというベクトルが本来の意味だと理解しているのだが、音の場合には逆かも知れない。活字を読む時、当然のように頭の中では音に変換して読んでいるわけで、むしろ声ではない部分、雰囲気や雑音や世界の発する音というものには、BGMや効果音から逆にイメージを広げられる部分があるように思えた。

微在汀線の彼方へ――飛浩隆インタビュー 飛浩隆 聞き手/鈴木力

 次は飛浩隆さんのインタビュー。『グラン・ヴァカンス』は10年間ずっと書き続けてきた(だから10年間のブランクというのは本人にとっては存在しない)、最初は20枚くらいの、第1章にあたる部分の風景を描こうとしてスタートした、設定については突っ込まれてもカバーできるように色々考えてある、等々、『グラン・ヴァカンス』に関する詳しい話を聞くことができた。
 面白いと思ったのは、美しい視覚的イメージを文章で表現しようとしているように思えることについて、本人はむしろ否定的で、視覚的イメージを喚起させようと描く文章では、本当に強いイメージは出てこない、とか、美しいイメージをもたらすものは決して美しい文章ではない、といった発言が興味深かった。また、映画のテクノロジー(SFX?)に関心があり、それを越えるような文章を書きたいとの言葉もあった。
 今後の作品について、(グラン・ヴァカンスの世界の中で)50年代の高校生を主人公にした青春もののような作品を構想しているとのことで、どんな話になるか興味津々である。

SFの海・レムの海――スタニスワフ・レムを語ろう 巽孝之・島田和俊・芝田文乃 聞き手/野田令子

 レムの話が聞きたいという野田令子さんの望みで実現したというこのパネルは、まずスティーヴン・ソダーバーグ監督による『ソラリス』リメイク版の予告編から始まった。アメリカではこけたというこの映画、怖いもの見たさはあるなあ。
 国書刊行会からレム全集が出版されるということで、翻訳者のひとり芝田さんによるポーランドでの現在のレムの位置づけの紹介が面白かった。ポーランドでのレムは国を代表する文学者として認められており、「泰平ヨン」や「ピルクス」が小学校高学年の課題図書となっているのだそうだ。すごい。また最近出版された、レムが甥っ子のために書いたという書き取り練習用の物語、というのにびっくり。難しい綴りを色々織り込むために書かれた翻訳不可能な超絶ミステリというものだが、書き出しからぶっとんでいる。これ、ぜひとも読みたいなあ。
 巽さんからは往年のSFWAレム事件の話。このあたり、ぼくはリアルタイムで知っているわけだが、やはりディックの対応が面白い。こういう顛末がちゃんと記録されて公式に残されているのはさすがアメリカだと思った。

SFをBuchiのめせ!――出渕裕参上 出渕裕 聞き手/牧眞司

 本会の最後は牧眞司さんを聞き手に、ゲームやアニメで活躍するマルチ・クリエーター出渕裕さんとの対談。牧さんと出渕さんは昔からの知り合いだったそうだ。
 話題は当然映画版もできた「ラーゼフォン」が中心。「たんぽぽ娘」や「美亜に贈る真珠」のテイストがあるんだそうだ。しかし、TVの「ラーゼフォン」を3回見て見るのをやめちゃった人間なので、話にはほとんどついていけない。神林さんのノベライズもぴんとこなかったし。何でも「タイムトラベルではなく、観測問題をSF恋愛ものに使った初めての作品」なんだそうだ。
 出渕さんはファンダム出身。子供の頃はウルトラQやウルトラマンにはまった怪獣博士で、高2のころSFマガジンのテレポート欄を見てSFとアニメのファンクラブ「トリトン」に参加。そこには小谷真理もいた。その後アニメスタジオを見学したりして現在の道へ、という。まさしく「本の雑誌」6月号のSF者人生すごろくの「あがり」パターンじゃないですか。
 面白い話がたくさんあって、アニメのファンにはとてもおいしい対談だったんじゃないでしょうか。夜の部ではさらに業界の内幕的な話もあって、大変に盛り上がっていたようだ。

合宿企画

大広間でたこ焼き オークション SF JAPANの部屋
2003年版アニメ総解説 「北野どうぶつ図鑑」をみんなで折ろう 朝のふたき旅館前

 今年の合宿企画はオープニングの後、レギュラー企画として「ほんとひみつ」、「SF十段」、「ジェンダーSF研の部屋」、「アニメ総解説」、「オークション」など。特別企画として、「ファンタジーの世界−羊と丘のイギリス」、「夜と泥の−飛浩隆マニアックス」、「創元SF40周年」、「北野どうぶつ図鑑をみんなで折ろう」、「今、明かされる。出渕裕伝説」、「SFJAPANの部屋」、「日米SFファン、バカくらべ」、「SFコンベンション、ラジオドラマの音源を聴く部屋」といったものがあった。例によって盛りだくさん。
 大広間ではなぜか三村美衣がたこ焼きを始める。大阪出身の連中が、あーだこーだといいながら、入れ替わり立ち替わりで自慢のたこ焼きを焼いていた。今年はあまりひとつところにじっとせず、あちこち動き回って見ていたことと、年のせいかすぐ眠くなって2時ごろには寝てしまったこともあって、合宿企画の詳しいレポートはなし。ごめんなさい。「2003年アニメ総解説」で配られていた今年のアニメ作品への一言コメントが面白かったとか(家へ持ち帰って子供たちに見せたらけっこう受けていたよ)、「SF JAPANの部屋」では塩澤VS大野の編集長対決が見られたとか(あんまり勝負にはなってなかったようだが)、オークションでは相変わらず古本極道たちの技が炸裂していたとか、「創元SF40周年」では小浜くんが何だかほのぼのしていたとか、まあ、そんなところでしょうか。

 今年のセミナーも楽しく有意義に過ごすことができた。スタッフのみなさん、ごくろうさまでした。また来年もよろしく。


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