続・サンタロガ・バリア  (第12回)
津田文夫

 クリスマスに人間ドックにいったら、即要精密検査とかいわれて、調子が悪くなり、長い正月休みを本も読まずに過ごしてしまった。こないだ4時間待って5分の診察を受けて、また4時間待って結果を聞きに行ったら、気にするなとのお言葉、で、ちょっと体調が戻る。病は気からってホントだなあ。でも、気になるんなら骨髄専門にかかれと医者にいわれ、ちょっとイヤな予感。でもしばらくはこのまんまだろう。
 12月に出るはずだった本は今週ようやく校了予定。2月に出来た本を委員会に提出して、売りに出せばまあしばらく平穏になるはず。

 クリムゾンの『ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ』はあいかわらず、『レッド』+『ディシプリン』な感じだけれど、「ヌーヴォ・メタル」で少しはキレが良くなったのかな。『レヴェル・ファイヴ』や『しょうがない』に入ってた曲の性格がこのフルアルバムだとよくわかる。表題曲と「デンジャラス・カーブス」のせいか『ポセイドンの目覚め』を思い出すなあ。『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』よりも取っつきがいいので、少しは新しいファンが付くかもね。

 ハヤカワのJコレクションの残り3冊をやっと読み終える。『妻の帝国』は今時珍しい1984モノ。でも読み終わってすぐにしたのは、佐藤哲也のホームページ探し。だってこれ私小説臭いんだもん。で、発見したのがあの佐藤亜紀のオオアリクイ・ホームページ。さもありなん、とはこのことかって、今さら気づくなよっていわれそうだな。オオアリクイはフェロモンをまき散らしていて、とくに2,3年前の文章は圧倒的な磁力でバンバン引っかけている。オオアリクイというよりは女郎蜘蛛か。『妻の帝国』自体は律儀な不条理小説で、具体的なシステムと全体状況の説明がないので、いつも宙ぶらりんな感じで読み進むことになる。その律儀さに一番感心する作品。

 『アイオーン』は意外とイメージが湧きやすく、オーソドックスなSFファンタシーだった。個々の短編の出来はバラバラだし、全体からは浮いているようなエピソードもあるけれど、読後感は悪くない。高野史緒もはじめて読んだ作家だけれど『カント・アンジェリコ』も読んでみようか。

 『ノルンの永い夢』は最初のエピソードが落ち着かなくて、取っつきに失敗。あとのストーリー展開上、現実世界の情報を生な形でほおり込んだのは理解できるが、これは2番目のエピソードになっている本間鐵太郎が飛行船に乗っているところからはじめるべきだったと思う。あとプロローグでそれなりの描写をした女性編集者の扱いがその後ぞんざいになってしまったのも残念だ。ナチス時代の登場人物が現代の人物にどう対応しているかというミステリ的なプロットも中途半端でもったいない(そこまで意図してないか)。もう少し編集で整理されていたら、クライマックスの時間航行が『虎よ!虎よ!』のクライマックスとまではいかなくても、それに近い効果が生じたかもしれない。しかし、平谷美樹というひとはよほど『果しなき流れの果てに』が好きなんだ。
 と、ここまで読んだJコレはどれも十分に面白くて申し分ないけれど、売れているのかなあ。

 SFマガジンの書評欄に清水マリコの名前が載っていてビックリ。エロゲー・ノヴェライズの女神様である。いや、ホント。いつオーバーグラウンドに出てくるかと待っていたら、こんなところへでてきたか。できりゃ、一般小説ででてきてほしかったな。以前、清水マリコ賛を10枚ぐらい書きかけたのだけれど、うまくいえないことが多すぎて断念した。こんな作家ちょっといない(ただのスケベだけど)。


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