岡本家記録とは別の話(30年後篇)

岡本家記録(Web版)(読書日記)もご参照ください。11月は『 アイオーン』、『黒のバベル』、『天使』、『ノルンの永い夢』、『神様のパズル』を収録。

 ということで、ここでは上記に書かれていない記録を書くことになります。本編は読書日記なので、それ以外の雑記関係をこちらにまわしてみることにしました。

30年後

  うーむ。また年末ですね。時の経つのはなんとやらで、年末は時間SFがお似合い。『ねじの回転』も出て、「小説すばる」も時間SF特集(といっても、 山田/恩田対談と大森解説くらいか)ですね。

  そんななかで、創作研究会(北西航路)から「風の翼30周年記念号」を受け取りました。私もずいぶん昔に同人だったのですが、もう10数年例会にも出ず、会費も払っていないのに好意でいただきました。今回の冊子は、すっきりとした印象の外観/内容で、この会がかつて持っていたポテンシャルを髣髴とさせます。

 星新一のお父さん星一の未来予測小説『30年後』は、当時の大人が知りえた最大限の未来、30年後を描いた小説です。まあ、これが紹介された頃の私にとっても、30年なんてあまりにも遠い未来でした。30年前、1972年。大阪万博から2年後。もはや古代の伝説と化した、「奇想天外」も「SFアドベンチャー」も誕生前。関西ではネオ・ヌルはまだ、SHINCON(1975)は開かれておらず、筒井/眉村さんも30代の若手作家だったころ。この会の母体はチャチャヤングという深夜番組で、そこに設けられたショートショートコンテストに投稿していた常連が発足当初の主なメンバーでした。眉村さんが選んでいたせいもあって、後になるほど、どんどんレベルが上がっていきました。驚異的な水準でしたね(後に編まれた講談社のアンソロジイでも、この雰囲気全部は伝えきれていません)。私の見るかぎり、あのころのアンソロジストとしてのセンスは、筒井さんよりも眉村さんが勝っていたと思います。当時はディープな深夜族は当たり前でしたが、それでもコンテストの結果発表(上位の作品は朗読された)があったのは夜中の3時だったので、高校生には堪えました。SFは最先端のスノッブ受けジャンルで、純粋なSFファンではない人も深夜放送向けショートショートを書いていました。文学ファンでも、SFファンダムファンでもない、変わった種類の人も多かったですね。

 というメンバーが集まった同人誌です。ただ、ここからプロ作家になった人はいません。いや、チャチャヤング投稿者では谷甲州さんもいるので、作家は出ているのですが、創作研究会からはいないのです。たとえば、西秋生、江戸川乱歩研究で著名な中相作さんも、この会の出身ながらプロフェッショナルな作家ではない(二人は、後に別の会を作りました)。同時期に活動した大阪のファングループからも、実のところ作家になった人は極めて少ないようです。あれだけ人材がいたように見えたのに、翻訳家だって少ないので、そういう世代だったといえるのかも知れません。うーむ。でも、最近の関西SF作家ブームも、新本格の時のような(京大ミステリ研のメンバーから作家が続出)形ではなく、集団から生まれたわけではないですね。SFは孤独から生まれるものかも。

 この記念号は特にテーマのないアンソロジイです。心の奥底に棲むファイアスタータ、小さなころの記憶に潜む階段下の生き物、ネット上の空中戦、無数に考え出された風車アイデアの顛末、平安時代と日米戦争を結ぶ桜の花びら――、一般的に入手できる本ではないので、個々の詳細にまでは触れません。各作品の水準は結構高い。しかし、このままでは、並みのプロ作品なので、もう一段の掘り下げが必要と思います。何と言っても、小松左京賞46歳、ファンタジイ大賞47歳なので、SF/ファンタジイの40代は新人と見なせるわけです。気の若い(幼い?)中年が読者です。今年は、星群の会のアンソロジイも50代中心だったけど、まだまだこれからでは。
 

THATTA 176号へ戻る

トップページへ戻る