気分はリングサイド――わたしのプロレス観戦日記(7)

青井 美香


【東京ドーム異聞】
前回、ドーム大会で書き忘れたことがあったので、そのフォロー。

※ 見知らぬ顔見知り
わたしの席は、通路の真ん前。ここは、前に足を投げ出せる、トイレにたつとき出やすいという大きな利点があるものの、通路に立ち止まる人たちによって、目の前の眺望が邪魔されるという欠点もあった。特に、試合中、頻繁にやってきては、通路で一息いれる、生ビール売りの売り子さんたち。半袖短パンの太股が眩しい彼女たちは、通路でしゃがみこんでは、喉の渇いたお客を探す。邪魔だけど、でも、彼女たちも仕事だからねぇ。
で、休憩時間。通路はトイレに行くひと、煙草を吸いに外へ出る人、ふらふらする人でいっぱいになった。その雑踏のなか、ふと、左方向を見たとき、とてもとてもみかけたことのある男性がやってきた。「あ、絶対、わたし、この人、知ってる。挨拶したほうがいいだろか」一瞬、そんな思いが頭をよぎる。でも、その男性が近づいたとき、わたしは挨拶をしなかった自分にほっとした。ベージュの上着を着て、首からプレス証をさげていた男性は、顔見知りでもなんでもない。映画監督の周防正行監督。あんまりワイドショーなんかでおなじみだったため、頭のなかで「顔見知り」項目にインプットされていたらしい。
(後日、周防監督の東京ドーム大会レポートは「メンズ・ウォーカー」に掲載され た)

※ あの子はだぁれ
ドーム大会が終わり、どっと吐き出される観客の群れ。なにせ、6万人からが入っていたのが、一度に外に出てくるのだから、その混雑といったら、並みのものじゃない。わたしと相方がよろよろと、水道橋の駅に向かう歩道橋の上に達したとき、そこにちょっとした人だかりができていた。誰かがなにかを配っているらしい。ドームの観客をあてにして、チラシを配る輩は多いので、あまり気にも留めずに通り過ぎたものの、けっこう人が集まっているので、ふりかえって見る。と、相方が、「あれ、井上京子、本人だ」とつぶやいた。よく見ると、たしかに女子プロレスラーの井上京子。大柄な身体に、キャップを目深にかぶって、チラシを一所懸命に配っている。「来てくださいね」という言葉が風に乗って、聞こえた。どうやら、自分と井上貴子がシングルでぶつかる横浜アリーナ大会のチラシらしい。いや、どこの世界でも、営業も大変だなぁ。

というわけで、なんというか、とある事情で、この5月の東京ドーム大会以来、生観戦をしていなかったのだけど、8月、ついに復活。観てまいりましたので、そのレポートをば。

8月22日(日)
きょうはひさしぶりの生観戦。わたしが観戦から遠ざかって、いちばん変わったのは、なんといっても大森くんのブレイク! 高山と組んだタッグチーム、ノー・フィアーで世界タッグ・チャンピオンになっちまった!
グリーンボーイのころからずっとファンだった彼がついにブレイクしたことは、もちろん、嬉しいことは嬉しいのだけど、複雑な心境でもあります。よりによって、わたしが観戦できずに、家でもんもんと過ごしていたときにブレイクしなくても……って、しょうもないこと考えちゃったりして。
それはともかく、後楽園ホール。真っ昼間、炎天下の歩道を、神保町から水道橋まで歩くのはけっこうきつい。ここ数ヵ月、うちのまわりしか出歩かなかったつけがきたか、ホールにつくまでのあいだにぶったおれるかと思った。
でも、大丈夫。なんとかホールにたどりつき、エレベーターを5階で降りると、そこにはいつもの全日本プロレスの会場が待っていました。きょうは開幕二日目。
といっても、馬場さんなしの全日本、微妙に雰囲気がちがってきているような感じもするのだけど、変化しつづけないと、どこの業界でも生き残れないもんね。わたしは、こういう変化、嫌いじゃない。
第一試合は、浅子対橋。結果が決まっているみたいだけど、橋もなかなかやります。突撃と書かれたリングコスチュームも、けっこう似合ってきたみたい。
第二試合、井上雅央対スコーピオ。スコーピオは、わたしにとっては初めての選手。きのうは、テーマ曲が途中で切られたとお冠だったそうだが、きょうはばっちり長めにかけてもらって、ダンスを披露。リズム感はたしかにあるね。でも、最後、雅央に決めたトップロープからの技って、なんか失敗したぽかったなぁ。(だから、よけいに効いたかも)
第三試合は悪役商会がらみの試合。こういうときターゲットになるのは、グリーンボーイの森嶋。
休憩のあと、第四試合は、ひさしぶりの菊地のシングル。相手は新崎人生。いわゆる人生ワールドをおちょくる菊地。悪役商会がらみの壊れたキャラクターを演じ、人生の拝み渡りをパロってみせる。リングサイドの鉄柵で拝み渡りを決めてみせたり、いろいろやってみるのだけど、最後は人生の技が完璧に決まって、スリーカウント。でも、この試合、ほんとの見せどころは、終了後、人生に握手を求める菊地の表情にあった。なんともいえない、寂しさと悲しさが漂っていて……わたしはまともに見られなかった。せつなすぎた。菊地、どこか身体の具合が悪いのかしら。ふけこむ歳じゃないのに。
第五試合、朝日新聞一面の写真にもばっちり出た闘う国会議員、馳の元気のよさは目立ったけど、試合としてはとっちらかった印象。田上も、そういえば、あんまり元気がなかった。なんか覇気がないというか。どうしたのかな。
さて、セミの第六試合は、大森・高山のノーフィアーにオブライト対ベイダー、グラジエーター、モスマンの六人タッグ。うん、やっぱり勢いがあるね、ノーフィアー。大森にも高山にも余裕が感じられるもの。とはいえ、ベイダーに対すると、突然、むかしの大森くんが戻ってくるあたり、可愛い(^_^;)。最後は、この組み合わせで決まるしかないね、と思っていたとおり、モスマンをオブライトが投げて終わり。ところで、グラジって、FMWにあがってたときはペイントありだったのに、今回は素顔。けっこうお人好し系に見えてしまうところが問題かも。それと、顔が小さいね。今シリーズはお休みしてるけど、全日本一の顔デカ男、本田多聞との顔面比較対決が楽しみ、楽しみ(笑)。
メインは、これからの全日本の方向性はこれなのかという、軍団抗争(?)の8人タッグマッチ。めまぐるしく攻防が変わるので、飽きっぽい観客にはうってつけ。でも、どうしても、この組み合わせだと、途中で、丸藤、金丸、志賀の教育リーグに変じてしまうのは、しょうがないところ。バーニングにしても、アンタッチャブルにしても、そのへんが課題でしょ(って、試験じゃないけど(^_^;))。
出かけるとき、留守番(兼子守り)の相方に、「ひさしぶりの観戦だから、途中でへばって帰ってきちゃうかも」とふっていたのに、なんの、なんの、しっかり最後まで観戦。セミでは、「大森!」の檄もとばして、「ストレス解消にはプロレス観戦がいちばん」と確信して帰宅した、8月の日曜日でありました。


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