内 輪   第104回

大野万紀


 風邪をひいてしまうわ、FF8を始めてしまうわ、本を読む時間がどんどん少なくなっていく。その結果、つんどく本の山がどんどん高くなっていく……。というわけで、読みたいけどまだ読めない本の山を見ては、ため息をついている今日この頃です。

 寒い冬の夕空低くに、木星と金星が(見かけ上……当たり前だけど)ごく接近して見えています。明るく目立つ二つの星が、まるで二重星のように輝いているのは、まるでどこか異星の光景のようで、何だか新鮮で不思議な気分になります。そんな風に空を見上げて歩いていると、危ないんだな、これが。ちゃんと前も見なくちゃね。

 それではこの一月ほどで読んだ本から(読んだ順です)。

『チャイルド』 井上雅彦編
 〈異形コレクション〉の7巻目。ちゃんと続いているのはすばらしい。さて、今回は怖い子供の話がテーマ(そればかりではないが)。子供の出てくる怖い話というと、ぼくが思い出すのはフェリーニの映画(「世にも奇妙な物語」の第三話)だ。あの画面の端っこにちらりと見えるボールを持った少女。何ていうか、そこにいてはいけないものがいる怖さ。で、本書で印象に残ったものはというと、久美沙織「魔王さまのこどもになってあげる」、高瀬美恵「夢の果実」、斎藤肇「臨」、森奈津子「一郎と一馬」など。あ、萩尾望都「帰ってくる子」もよかった。

『ブギーポップは笑わない』 上遠野浩平
 何か若いSF関係者の間ですごく評判がいいので、おじさんとしても一応読んでみた。いや、ぼくだって近頃はヤングアダルトもちゃんと読めるようになってきたのだ(えへん)。で、なるほど、評判になるのはわかるような気がする。ストーリーは、人類を支配しようとたくらむ怪物と高校生の少年少女が戦うという、ごくありふれたもので、もちろんリアリズムな小説ではないが、少年少女たちの心の動きがリアルっぽく、生き生きと描かれている。このあたりが若い読者にはいいんだろうね。でもなー、怪物が少年を殺さずに仲間にするあたりで、ぼくにはそれ以上ついていけないものを感じてしまったよー。学園小説としていい、という人もいたが、学校生活はほとんど描かれていない。ばらばらな視点人物が交錯するだけだ。そのあたりの叙述は確かに面白い。一人称の視点が変わることによって、あれが実はこうだったのだ、という発見の面白さがある。でも、これって小説の叙述というより、あれですね、複数視点RPGゲームの叙述形式。それぞれは厳密な1人称ではなく(プレイヤーの視点なので)いわば1.5人称ってところか。でもこれを小説でやると、叙述に一貫性がないという風に見えてしまうのだね。というわけで、ぼくとしてはそこそこ面白かったが、もう一つのれなかったというところです。

『無限論の教室』 野矢茂樹
 講談社現代新書。これも評判のいい本だ。アキレスと亀から不完全性定理までを先生と学生の対話形式で面白くわかりやすく語った本……ということで、ぼくには、実はこんなもんだろうというある種の思いこみがあった。無限論というのはわりと好きな方なので(ラッカーも好きだし)、これまでも一般向けの本などを何冊か読んできて、本書はそれらと同様な、それをまたわかりやすく書いた本の一つと思っていたのだ。ところが、確かにわかりやすく楽しく書かれた本には違いないが、本書は現代数学の主流の考え方(つまり高校や大学の教養課程で学び、一般の啓蒙書で書かれている内容)に疑問を投げかける本だった。何しろ、実数というものは実在しない、という立場なのだから。一見とっぴに思えるが、この本で読むと、実に説得力がある。主流じゃないとはいえ、これもちゃんとした数学的な立場(直観主義)の一つだし、それに主流の考え方についてもしっかり説明してある。ゲーデルのやったことがいかに数学にとって大変なことだったかとか。そういえば大学に入った頃、数学雑誌の特集かなんかでこの直観主義のことを知って、すごく魅力的に思えたことを思い出した。でも「これでは面白い数学ができない」といったような理由ですたれたとか聞いた記憶がある。対角線論法の話も面白い。

『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター』 上遠野浩平
 パート1、パート2の二巻本。前作とはまた敵が違う。今回の敵はイマジネーターというもう一つ何だかよくわからないやつ。それと統和機構というやっぱり何だかよくわからないやつも出てくる。登場人物の名前が結構ややこしくて、よけいに混乱する。うーん、前作はそれでも面白く読んだのだが、今回はうーん、とうなるしかないなあ。ブギーポップって、タキシード仮面みたいなもんでしょ? 違うのか……。敵味方が入り乱れ、それぞれの関係も複雑で、でもそれがどうしたって感じでぼくには興味が続きませんでした。

『ブギーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ』 上遠野浩平
 今度はけっこう面白く読めた。登場人物がちゃんと書き分けられている。だけど、6人もいらんでしょ。この半分で十分な感じ。話の大枠は相変わらずあいまいなまま。ブギーポップもやっぱり何だかよくわからない。炎の魔女も同じ。統和機構も……。ま、それは別にわからなくてもいいやと思えてきた。そういう話ではないのだな。だけど、そうなるとぼくの楽しめるところは限られてくるなあ。

『造物主の選択』 ジェイムズ・P・ホーガン
 タイタンの機械人たちとインチキ心霊術師の活躍。前作も面白かったが、本書も面白い。今回、彼らの造物主である異星人が登場するが、こいつらがまたいい。すごく根性の悪い異星人だ。とにかく相手の裏をかき、裏切り、だますのが正しい文明のあり方だという連中。ひたすら底意地の悪いやつらだが、なぜか憎めないんだよね。後半で、彼らと地球人の戦いとなるのだが、ついつい異星人側を応援したくなったり。これで機械人たちがもっと活躍してくれたら、何もいうことはなかったのだが。


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